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「下山鑑定」「取り調べテープ」の学習・教宣をすすめ、証拠開示、事実調べ・再審開始を求める世論をさらに大きくしよう

「解放新聞」(2016.10.10-2782)

 狭山弁護団が8月22日に東京高裁に提出した下山鑑定は第3次再審で決定的ともいえる重大な新証拠だ。被害者の所持品が自白どおり石川さんの家から発見されたとして、有罪判決の決め手の証拠となっていた万年筆が「被害者のものではない」ということが科学的に明らかになった。
  証拠開示されたインク瓶から被害者が使っていたインクが、従来その色からライトブルーとよばれていたが、パイロットが当時販売していたジェットブルーという商品名のインクであることがわかり、弁護団はジェットブルーインクを入手した。下山鑑定はこれら当時のジェットブルーとブルーブラックのインクを使って実験をおこない、ブルーブラックインクに微量にでもジェットブルーインクが混じっていれば、当時の科学警察研究所がおこなったペーパークロマトグラフィ検査で、両方のインクの成分があらわれることを実験で確認した。しかし、事件当時、石川さんの家から発見された万年筆、被害者のインク(家にあったインク瓶や書き残した日記文字のインク)を検査した科学警察研究所の荏原(えばら)鑑定の結果(ペーパークロマトグラフィー検査の写真)をみると、発見万年筆には被害者が事件当日まで使用していたジェットブルーインクの成分があらわれていない。下山鑑定は、科警研鑑定のこの結果を精査・検証し、発見万年筆にはブルーブラックインクだけしか入っておらず、被害者が使っていたジェットブルーインクはまったく入っていなかったことを指摘した。この動かせない事実は、石川さんの家から発見された万年筆が被害者の万年筆ではないこと、被害者の万年筆にブルーブラックインクが補充されたとして再審開始を棄却してきたこれまでの裁判所の決定が誤りであることを示している。

 さらに、下山鑑定が明らかにした新事実は、「殺害後に被害者の鞄から万年筆を筆箱ごと持ち帰り、自宅のお勝手入口のカモイに置いていた」という石川さんの自白が虚偽であることを示している。ふだん字を書くことのなかった石川さんが万年筆を持ち帰り、自宅の入り口に置いたままにしておくというこの自白じたいが不自然であるし、高さ175・9センチ、奥行き8・5センチしかないお勝手入口のカモイの上にあったという万年筆が2回の徹底した警察の家宅捜索で発見されず、3回目にみつかったという経過もおかしい。10数人の警察官が2時間もかけた捜索で、カモイの万年筆を見落とすことは考えられないからだ。発見万年筆には被害者の指紋も、それを持ち帰ったという石川さんの指紋もない。これらの疑問と今回の下山鑑定をあわせてみれば、万年筆はねつ造された証拠といわざるをえない。
  万年筆のねつ造の疑いは、同じように自白にもとついて発見されたという鞄や腕時計の疑問をさらに深めることにもつながる。下山鑑定は自白の虚偽と捜査の不正(ねつ造の疑い)を示している。

 第3次再審では、証拠開示された取り調べ録音テープも石川さんの無実を示す重大な新証拠だ。取り調べ録音テープでのやりとりから、石川さんが犯人でないゆえに、死体の状況や鞄の捨て方などの犯行内容をまったく知らず、「犯行体験」を何も語れていないことが明らかになった。取り調べで石川さんが、死体がどうなっていたか教えてほしいと警察官にたずねていたことも、開示された警察官の報告書で明らかになっている。
  「スラスラ自白した」「自白調書は石川さんの述べたことを書いただけ」などという警察官の法廷での証言を根拠に、自白は信用できるとした寺尾判決の誤りも取り調べ録音テープでわかった。
  また、取り調べ録音テープによって、石川さんが警察官に1字1字教えられながら、ひらがなで文字を書いているにもかかわらず、正しく書けていないこともわかった。同じく第3次再審で開示された逮捕当日に石川さんが書いた上申書などとあわせて、当時の石川さんが部落差別ゆえに教育を受けられなかった非識字者であり、脅迫状を書けなかったことは明らかだ。
  こうした取り調べ録音テープによって明らかになった無実を示す新事実を訴えるDVDも製作された。これは、取り調べ録音テープや心理学者の鑑定をもとに、石川さんが受けた取り調べを再現したドラマのDVDである。脅迫状を書いたことを強引に認めさせようとする自白強要ともいうべき取り調べ、犯人でないがゆえに犯行内容を語れない石川さんを誘導しながら自白をつくっていく場面、警察官が教えながら石川さんが字を書いている場面など、虚偽自白がいかにしてつくられていったか、当時の石川さんが字を書けず、脅迫状を書いていないことを明らかにした学習教材だ。
  全国各地で取り調べDVDを活用した学習会をおこない、石川さんの無実を広く訴えてほしい。

 証拠開示の闘いも終わっていない。まだ多くの隠された証拠があり、弁護団は、万年筆や自白にかかわる捜査資料の開示を求め、協議が続いている。弁護団は、埼玉県警などが作成した証拠物の一覧表の開示も求めている。東京高検の検察官は証拠開示請求にすみやかに応じるべきである。東京高裁は証拠開示を強く勧告すべきである。
  石川一雄さんに「みえない手錠」をいまもかけている東京高裁の寺尾正二・裁判長の有罪判決(寺尾判決。1974年10月31日)から42年をむかえようとしている。第3次再審では、これまで185点の証拠が開示され、そのなかから、多くの無実の新証拠が発見された。下山鑑定、取り調べ録音テープ、筆跡鑑定など狭山弁護団が提出した184点の新証拠によって、寺尾判決(有罪判決)の誤りは満天下に明らかになっている。東京高裁第4刑事部(植村稔・裁判長)は鑑定人尋問をおこない、狭山事件の再審を開始すべきである。
  狭山事件では数多くの新証拠が提出されてきたにもかかわらず、寺尾判決いらい42年もの間、一度も証人尋問などの事実調べがおこなわれていない。


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