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「人権と福祉」の拠点として隣保館をさらに活性化させよう

「解放新聞」(2017.05.22-2811)

  来年度から実施される介護保険関連法の改正案が、4月18日に衆議院本会議で採決された。参議院での審議後、今国会で成立する見通しだ。

 2015年の介護保険制度の改悪で、利用料2割負担の一部導入とともに、施設入所時の食費や居住費の補助を打ち切るなど、給付削減と自己負担増加によって、特別養護老人ホームへの入所制限などを実施し、サービス利用を抑制する方向がさらに明確になった。

 今回の改悪では、厳しい財政のもとで、世代間・世代内の公平性を確保しつつ、制度の持続可能性を高めるためとして、単身で年収340万円以上、夫婦世帯では年収463万円以上の高齢者の自己負担額を2割から3割にし、40歳から64歳の介護納付金をこれまでの加入者割から総報酬割にすることとしている。また、「自立支援」「重度化防止」を強制し、成果をあげた自治体を財政面で優遇するしくみが導入された。安倍政権は、介護度軽減や介護給付費の低減競争に自治体を駆り立て、介護費用抑制をすすめようとしており、サービスが必要な人を介護保険から排除している。

 また、介護医療院の新設や高齢者と障害児者への支援を同一事業所でおこなう共生型サービスを新設するとしているが、共生型サービスについては、高齢障害者の介護保険優先原則をさらに強化するもので、高齢障害者の生活や生存を脅かすものだ。

 前回の制度改悪後の要介護者や家族への悪影響などの検証も十分におこなわれないまま実施される今回の改悪は、制度の持続性を根拠にしているが、政府のすすめようとしている介護保険制度では、納付金・税金・サービス利用料などの負担は増加するが、給付は抑止されることになるのは明らかだ。

 私たちは、「自助」「共助」「公助」の理念を生かした「人権と福祉のまちづくり」運動にとりくんでいる。しかし、安倍政権は、「我が事・丸ごと」地域共生社会を推進するとして、自立を強制する一方、地域住民の支え合いなどの「自助」「共助」のみを強調することで、今後の社会福祉全般の制度を改悪しようとしている。

 このような制度改悪と断固闘い、財源の確保や制度の拡充を求め、社会的支援を必要とする人が排除されることのない地域福祉運動のとりくみをすすめていかなければならない。

 さらに、「人権と福祉のまちづくり」運動のとりくみのなかで、「人権と福祉」の拠点施設としての隣保館活動(事業)の強化や、さまざまな施策での隣保館の役割・位置づけを明確にしていくことが求められる。とくに、「地域福祉計画」のなかに隣保館の役割など部落問題解決への視点を位置づけ、福祉や医療・介護制度を充実させるとりくみをすすめていこう。

 全国隣保館連絡協議会(全隣協)によると、昨年7月時点で全隣協に加盟している隣保館は33府県に821館で、公設公営、指定管理運営、社会福祉法人立、民設民営など運営形態はさまざまだが、地域のコミュニティセンターとして活動している。

 昨年12月に名古屋市で開催した第23回中央福祉学校での、全隣協の川﨑正明・会長の講演では、隣保館の現状と今後の課題をテーマに学習を深めた。隣保館運営の現状として、①隣保館活動の領域と内容を進化・拡大させた館(部落問題だけでなく、さまざまなマイノリティの課題を、つながりをつくるなかで解決していく方向)②部落問題だけに限った従来の隣保館活動を維持しようとする館③隣保事業が後退・縮小し、施設を維持することに汲汲としている館④隣保事業そのものがなくなって、完全に貸し館化している館⑤休館もしくは廃館、あるいは施設の目的が変更された館、の5つほどの形態にわけて、実態が示された。

 とくに、自立相談支援事業や子どもの学習支援事業、就労訓練事業といった事業を展開しているところもあるが、人材不足、財源不足で、相談事業など本来の隣保事業にとりくむことも困難な館もあり、それぞれの地域で隣保館がどういった事業をおこなっているのか、地域の実情に即したものになっているのか、私たちはどれだけの事業にかかわっているのか、主体的に見直す必要があることも課題として明らかになった。

 「部落差別解消推進法」や「障害者差別解消法」などをふまえ、隣保館の位置づけや役割を明確にしていくとりくみも必要だ。私たち一人ひとりが隣保館の事業について、地域住民として積極的にかかわり、地域福祉の推進に向けて「人権と福祉」の拠点として隣保館をさらに活性化させていくとりくみをすすめよう。

 


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