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部落問題資料室
コラム
荊冠旗 第2092号/02.10.28
 人間というのは、きわめて主観的な存在だ。たとえば、映画を話題にしよう。先頃、東宝映画「阿弥陀堂だより」を見た。まったくおもしろくない。なぜなら悪人は誰もおらず、現実が描かれていないからだ
▼東京で最先端医療にかかわっていた妻が心に病をもち、そのために売れない小説家の夫の故郷、長野に帰った。阿弥陀堂を守りする九十六歳の老女、彼女の聞き取りをする声帯を病み声のでない女性。その女性が広報誌に書くタイトルが阿弥陀堂だよりなのだ
▼妻は四季折おりの自然と、村人との暖かい交流、女性の病の進行を自分のかかわった最先端医療で治癒する、という経験をつみ、自分自身も治癒する。そして、村で夫とともに生きていくことを決心する。いわば癒しと再生の物語がイメージされている
▼しかし、賢明な読者なら理解できるだろう。村の中に帰ってきた夫婦がどのような噂やまなざしのもとにおかれるか。あるいは自然の厳しさを。村の社会や人の歴史も「満州からの引き上げ」などが語られるだけで、何ら対象化されていない。まったく無菌室が描かれたような映画だ
▼もっともこんな映画がはやるわけもなく、劇場はがらがらだった。寅さん同様、現実と交わらないライターが作った映画に間違いあるまい。「地獄への道は善意で敷き詰められている」とはよくいったものだ
▼もっとも、これも私の主観なのだが、共有できると思う。

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