『沖縄を撃つ！』

花村　萬月　著　　集英社新書（定価720円）

　米兵による強姦事件がおこれば、「そんな時間にそんな所にいる方も問題」という声が必ず聞こえてくる。ましてや「善良な子女」を守るためには、米兵相手の歓楽街とそこに働く女性たちの存在は必要悪だという声もある。年収が1000万円以上の所得層が全国平均にある沖縄で、県民全体の年収は全国最下位だ。年収300万円にも満たない圧倒的貧困が支配している島でもある。
　 彼は見る。疲れ切った表情で体を開く女性たち。米兵との間に生まれた子どもたちの怯えた眼差し。ホームレスの人びとの存在。さらにいえば、毎年くりかえす成人式での風景。閉塞した基地の島のなかになげだされた者たちが生きるための選択肢は多くはない。
　 花村の立つ場に疑問はあるが、彼の視線の先にある沖縄は、たしかに一つの現実だ。マイノリティ運動であるために課題は政治化される。政治化に値せぬ人たちは、声もなく底辺を漂流する。それは、戦争という記憶の共有だけではくくれない問題を内包している。ヤマトが強いて来た歴史は、こうした所に澱みを生み出す。沖縄の現実は、青い海の癒やしの島でないことだけは確かだ。　（安）