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部落問題資料室
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主張

 

東京高検がもつ証拠の開示など強く求めよう
(2000.12.4-第1997号)

 狭山弁護団は11月8日、9月に足跡に関する鑑定書を提出した山口、鈴木両東大助教授とともに東京高裁をおとずれ、高橋裁判長と面会した。この日の面会で高橋裁判長は、山口、鈴木両鑑定人から提出された鑑定について説明を聞いた。山口・鈴木鑑定は、3次元スキャナを用いて、現場足跡石膏の形状全体を立体的に計測した結果、現場足跡がきわめて不明瞭で、押収地下足袋との形状の類似性、とくに「破損痕」の一致を論じるほどの証拠価値がないことを明らかにしたものである。さらに、山口・鈴木鑑定が、「破損痕」が一致するとした埼玉県警の関根・岸田鑑定の鑑定方法の問題点を指摘していることも重要である。関根・岸田鑑定は、現場足跡と押収地下足袋で作られた対照用足跡の写真を撮り、その写真上で長さや角度を測って「破損痕」箇所が一致するとしているが、山口・鈴木鑑定は、このような関根・岸田鑑定の平面写真による比較方法じたいに、そもそも問題があることを指摘した上で、関根・岸田鑑定が写真上で一致したとしていたものが実際の立体形状では異なっていることを3次元スキャナによる計測結果によって科学的に明らかにしている。関根・岸田鑑定のいう「破損痕」の一致の証明が信用できないことが暴露されたといえよう。
 こうした山口・鈴木鑑定の結論は、関根・岸田鑑定をもとに、石川さん宅から押収された地下足袋の破損の痕跡が現場足跡に見られ、その「形状、大きさ、印象部位がまことによく合致している」とした再審棄却決定の誤りを明らかにしたといえる。
 今回の面会で、山口、鈴木両鑑定人が、こうした鑑定内容を、添付したビデオや写真をもとに、高橋裁判長に具体的に説明したことの意義は大きい。弁護団は、高橋裁判長にたいして、そのほかの新鑑定についても同様の説明の機会をもうけるように求めるとともに、年内に補充書を提出することを伝えた。東京高裁は、山口・鈴木鑑定が再審を開始すべき新規・明白な新証拠であることを認め、ただちに再審を開始すべきである。
 弁護団は、東京高裁にたいして、新鑑定の提出を積み重ね、事実調べ――再審開始を強くせまっている。これをバネにして、さらに棄却決定批判の声を大きくし、狭山事件の再審開始を求める闘いを一層強化しよう。

 弁護団は、さる10月26日、東京高検の江幡検事と証拠開示についての折衝をもった。弁護団は、証拠リストをはじめ証拠開示請求書に記載した具体的な証拠の開示を強く求めたが、江幡検事は、弁護団請求の証拠開示にたいして「該当するもはない」として、まったく開示しなかった。また、証拠リストについても、東京高検の見解として、開示できないとつっぱねた。こうした東京高検の姿勢はきわめて不当であり、断固抗議するものである。
 そもそも、再審請求で検察官が証拠開示をおこなうことは、公平な裁判を受ける権利を保障するために必要不可欠である。なぜならば、現行の再審制度においては、新証拠発見が再審開始の要件とされており、新証拠になる可能性がある証拠を検察官がもちながら開示しないということは、再審制度の趣旨、「無辜の救済」という理念からして許されないというべきだからである。
 検察官が手持ち証拠を開示することを義務化する制度は世界各国で確立されており、一昨年、国連の国際人権〈自由権〉規約委員会は、日本政府にたいして、弁護側への証拠開示の保障を強く勧告しているのである。
 江幡検事は、ただちに「証拠リスト」を開示し、弁護側請求の証拠開示におうじるべきである。また、東京高裁の高橋裁判長は、国連勧告や司法改革の動きもふまえて、公正・公平な再審請求の手続きを保証するために、東京高検の江幡検事にたいして、すみやかな証拠開示を勧告・命令するべきである。

  司法制度改革審議会は11月20日に、中間報告を発表したが、そこでも、「国民の期待にこたえる刑事司法の在り方」のなかで、「刑事裁判の充実・迅速化のために」「検察官による証拠開示の拡充」が必要とされ、証拠開示の「時期、範囲、裁判所の役割などを法令で明確化する必要」が指摘されている。
 司法改革のなかで検察官による証拠開示を拡充する必要性が指摘されたことも重要である。司法制度改革審議会は答申にあたって、さらに、現実のえん罪・誤判の実態に十分眼を向け、人権擁護とえん罪防止、誤判救済を視点にいれた司法改革がすすめられることを要望したい。そのためにも、死刑確定者が無罪となった再審4事件をはじめとするこれまでのえん罪・誤判の真摯な反省と教訓を忘れてはならない。とくに、これら再審無罪事件が、証拠開示が新証拠発見、誤判救済のカギとなったことを教訓にすべきである。実際の誤判事件を教訓として検察官の証拠開示義務化を確立したカナダなどの例に積極的に学ぶべきである。また、愛媛の誤認逮捕起訴事件のように、虚偽自白によるえん罪が跡を絶っていないことを見逃してはならない。あいついだ警察の不祥事も考えるとき、被疑者の公的弁護制度の確立はもとより、国連からも勧告されているように、警察での取り調べの可視化、適正化の確保や代用監獄の廃止、あるいは、裁判官をふくむ司法関係者の人権教育推進が司法改革のなかですすめられなければならない。
 狭山事件の再審請求で、2メートル以上もの膨大な証拠を検察官が持ちながら37年たったいまなお開示しない不当・不公平な実態を訴えるとともに、市民の常識的な感覚として証拠開示、とくに再審請求において弁護側が証拠開示を受ける権利の保障は当然のことであるという市民の声を、司法改革審議会にたいして届けていくことが重要である。

 この間も各地で「狭山住民の会」「市民の会」があいついで発足した。現在、23都道府県96地区で住民の会が結成され、地域でさまざまな活動を展開している。さらに、各地で「住民の会」結成をすすめよう。また、棄却決定批判、新証拠や証拠開示、司法制度についての学習を強化するとともに、インターネットなども活用して国際的に狭山事件を発信するなど活動を活性化させよう。緊迫感をもちながら、東京高裁、東京高検にたいする要請ハガキ運動などの取り組みを強化しよう。とりわけ、証拠開示を拒否しつづけている、東京高検の江幡検事に証拠開示を強く求めよう。

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