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部落問題資料室
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「中間取りまとめ」にたいする意見を全国から集中しよう
2000.12.25-第2000号)

 人権擁護推進審議会は、11月28日「人権救済制度の在り方に関する中間取りまとめ」を公表した。
 それによれば、来年1月19日までパブリックコメントを求めるとともに、大阪(1/22)、福岡(1/23)、東京(1/29)、札幌(1/30)において公聴会を開催し、これらを通して出された意見を今後の審議の参考にするとのことである。
 わが同盟としては、99年12月「人権侵害の被害の救済」について、人権擁護推進審議会で意見表明をおこない、基本的な見解を明らかにした。
 さらに、本年10月27日付で、同審議会の「中間取りまとめ」に向けて「要請文」を提出したところである。
 以上の経過をふまえ、今回公表された「中間取りまとめ」を見たとき、8点に及ぶ基本的な問題がある。

 1.新たな方策の確立が求められている深刻な部落差別の実態が「中間取りまとめ」では、明確に認識されていない。
 今回公表された「中間取りまとめ」を一読したとき、なによりもまず感じられるのは、現状のままでは解決できない深刻な部落差別の実態が明確に認識されていないという問題がある。たとえば、1975年の「部落地名総鑑差別事件」につづいて98年6月に「差別身元調査事件」が発覚してきていること、大阪府岸和田市住民による差別張紙事件に代表されるように、関係行政機関が説得しても差別行為をやめようとしない事件が生起してきていること、「部落民を皆殺しにせよ」などの差別扇動がインターネットを通して流布されていること、などである。
2.「差別禁止法」(仮称)の整備の必要性がもりこまれていない。
独立した人権委員会(仮称)を新たに設置し、一定の強制力をもった調査を実施し、実効ある救済を可能にするためには、そのことと密接不可分なこととして、人権委員会(仮称)がとりあげる差別なり人権侵害を法律で禁止しておく必要がある。そのことがなければ、人権委員会としては、従来通りの任意調査と注意処分しかできないこととなってしまう。このため少なくとも、国際人権規約や人種差別撤廃条約をふまえた「差別禁止法」(仮称)を整備する必要がある。
 その際、部落差別事件等の現状をふまえたとき、「差別身元調査事件」などを根絶するための就職差別の禁止、結婚差別や就職差別を助長する調査業者による差別身元調査の禁止 、「部落民を皆殺しにせよ」などとした集団にたいする差別宣伝・差別扇動の禁止をもりこむことが必要であるが、「中間取りまとめ」には、この点が盛り込まれていない。
3.当事者間の話し合い、既存のシステムなどによる救済によって解決が可能な差別や人権侵害については、それを尊重するという原則を明確にしておくこと、民間団体との連携が必要であるが、この点についてもふれられていない。
差別や人権侵害について、当事者間の話し合いや既存のシステムによって解決されている事例も存在している。新たに設置される人権委員会(仮称)に求められているいることは、当事者間の話し合いによっても、あるいは既存のシステムによっても解決できない問題を、民間団体と連携して簡易、迅速、かつ安価に解決することであることを明確にしておく必要があるが、この点が「中間取りまとめ」では、明確にされていない。なお、当事者間の話し合いのなかには、わが同盟が展開している糾弾による解決も含まれることはいうまでもない。
4.警察官や入国管理関係職員、刑務官など公権力の行使にかかわる職員による人権侵害にたいして、新たに設置される委員会が強制力をともなった調査、ならびに是正命令などを行使できる必要があるが、この点の指摘がなされていない。
 近年、警察官や入国管理関係職員、刑務官など公権力の行使にかかわる職員による人権侵害が多発している。一方、日本は、1999年に「拷問等禁止条約」に加入した。このような状況下にあって、公権力の行使にかかわった職員による人権侵害にたいしては、新たに設置される委員会が強制力をともなった調査ができること、ならびに人権侵害が明確になった場合には、強制力をともなった是正命令等が出せることなどが必要である。しかしながら、この点の指摘がなされていない。
5.新たに設置される人権委員会(仮称)は、「国家行政組織法」第3条にもとづく独立委員会とし、部落差別をはじめとした差別や深刻な人権侵害を効果的に解決できるものとすることが必要であるが、「中間取りまとめ」では、この点でも不明確である。
 新たに設置される人権委員会(仮称)は、「国家行政組織法」第3条にもとづく独立委員会とすること。また、この委員会は、すべての府省庁にかかわる問題を取りあつかうことになることから内閣府との関連をもった委員会とすること。さらに、この委員会は、部落差別をはじめとする差別、深刻な人権侵害を効果的に解決できるものとする必要がある。このため、この委員会の設置にあたっては、①パリ原則にもとづき人権問題に精通した多様な委員を確保すること②十分な人員を確保すること③部会を設置すること、などの工夫をこらす必要があるが、これらの点が「中間取りまとめ」では不明確である。
6.中央レベルの人権委員会(仮称)だけではなく、少なくとも都道府県・政令都市レベルの人権委員会(仮称)を設置する必要があるが。また、委員の選任や職員の採用にあたっては、ジェンダーバランス、定住外国人を含むマイノリティ出身者を積極的に選任する必要があるが、この点の指摘がない。
 部落差別をはじめとする差別や深刻な人権侵害を簡易、迅速、かつ安価に解決していくためには、中央レベルのみでなく、少なくとも都道府県・政令都市レベルの人権委員会を設置する必要がある。この点は、地方分権という時代の要請、差別や人権侵害は、基本的には地域で生起している現状を直視したとき重要な視点である。
 また、そのさい中央の人権委員(仮称)は、内閣総理大臣が国会の承認を得て任命するものとし、地方の人権委員(仮称)は、都道府県知事・政令都市市長がそれぞれの議会の承認を得て任命するものとすること。委員の選任や職員の採用にあたっては人権への理解度、ジェンダーバランス、定住外国人を含むマイノリティ出身者を積極的に選任すること。
 なお、中央の人権委員会(仮称)は、2つ以上の都道府県・政令都市にまたがる事件、ならびに重大事件を担当し、それ以外の事件は地方の人権委員会(仮称)が担当するものとし、同等の権限をもつものとすること。これらの諸点が、「中間取りまとめ」では、またく欠落している
7.人権擁護委員の現状を見たとき、抜本的にその在り方を見直す必要があるが、「中間取りまとめ」では、その視点がない。
 人権擁護委員の現状を見たとき、多分に「名誉職化」しているといわざるを得ない。
なかには、人権擁護委員が部落差別事件を引き起こしている事例さえ存在している。また、その構成を見ても高齢者、しかも男性に偏っているという問題があり、抜本的にその在り方を見直すことが不可欠である。それにもかかわらず、「中間取りまとめ」では、安易に人権擁護委員の「活用」が考慮されている。
8.新たに設置される人権委員会(仮称)の教育・啓発機能は限定したものとすることが必要であるが、その点の指摘がない。
 新たに設置される人権委員会(仮称)は、人権侵害の救済を中心的な任務としながらも、①人権政策にかかわった提言機能②日本が締結した国際人権諸条約の実施、とりわけ報告書の作成にあたっての助言機能③人権教育・啓発機能などをあわせもつことが必要である。ただし、このうち人権教育・啓発機能については、①人権侵害の救済にとりくんだ経験をふまえた教育・啓発のあり方についての提言機能②人権侵害の被害者の救済に関係した人びとにたいする教育・啓発機能③人権侵害の被害者の救済にかかわる人権委員や職員などにたいする教育・啓発機能などに限定されるものとすることが必要であるが、その点の指摘が「中間取りまとめ」にはない。
 なお、第150臨時国会で「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が制定されたが、この法律で求められているごく一部の機能を人権委員会が担うこととなる。

  なお、中央本部としては、「中間取りまとめ」にたいする逐条的な見解を別途とりまとめているが、今後のとりくみとしては、なによりもまず、これを参照し「中間取りまとめ」の内容と問題点の検討を、各都府県連、地協、各支部でおこなうことが必要である。
 ついで、1月19日締め切りのパブリックコメントに関したとりくみが必要である。パブリックコメントの送付にあたっては、中央本部見解をもとに、各都府県連、各支部の実態をふまえたコメントの送付が求められている。
 さらに、1月22日から1月30日まで、大阪、福岡、東京、札幌でおこなわれる公聴会に向けたとりくみ(傍聴や意見表明)が必要である。
 なお、これらのとりくみの実施にあたっては、部落解放基本法制定要求各地実行委員会に結集する団体との連携をもったとりくみも企画することが求められる。
 これらのとりくみによって、新しい21世紀において、部落差別撤廃と人権確立が飛躍的に前進する「規制・救済」に向けた審議会答申がだされるよう、全力を傾注しよう。

資料:「人権救済機関の在り方に関する中間取りまとめ」に対するわが同盟の見解
http://www.bll.gr.jp/s-gyo-kyusaiseido.html

資料:人権擁護推進審議会「人権救済制度の在り方に関する中間取りまとめ」
http://www.moj.go.jp/PUBLIC/JINKEN04/settlemen00.htm
関連:「人権救済制度の在り方に関する中間取りまとめ」に対する意見募集等について
http://www.moj.go.jp/PUBLIC/JINKEN04/pub_jinken04.htm

資料・関連:人権フォーラム21「中間取りまとめ」のパブリック・コメント&公聴会に積極的に参加しよう!
http://www.mars.sphere.ne.jp/jhrf21/Campaign/20001220B.html


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