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部落問題資料室
NEWS & 主張
主張
人権擁護法案大綱を批判し
実効性ある委員会求めよう

 一月二十一日から第百五十四通常国会が開会されている。一月末に、法務省は「人権擁護法案」の大綱を公表した。それによると、二月上旬にも「人権擁護法案」を国会に提出するとのことである。
 この「人権擁護法案」に関して、現在判明している問題点と今後の課題をつぎに提起する。

 まず、法律の名称であるが、「人権擁護法」では、これまで法務省でおこなわれてきた人権擁護の枠組みにとらわれていて狭く不適切である。たとえば「人権法」「人権保障法」とするべきである。
 つぎに、目的であるが、救済、予防、啓発に限定されていて「禁止」が欠落している。

 総則のなかの「国の責務」として、人権擁護の施策を総合的に推進することとしているが、人権擁護と狭く規定するのでなく、人権保障と広く規定する必要がある。
 人種侵害行為等の禁止として「何人も、社会生活の領域等における人種等を理由」とする不当な差別的取り扱いをはじめとする人権侵害行為および一定の差別助長行為等をしてはならない」と定めている。これは、差別や人権侵害を禁止したものとしては重要であるが、罰則規定はなく訓示規定にとどまっている。
 なお、社会生活の領域として、国・地方公共団体等の公務、商品・サービス・施設の提供、雇用、教育が盛りこまれている。
 さらに、人種等のなかには、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病、性的指向が規定されている。
 このほか、差別助長行為等としては、差別的取り扱いを助長する目的で不特定多数者の人種等の属性に関する情報を公然と摘示し、または不特定多数者にたいして差別的取り扱いをする意志を公然と表示する行為が該当するとしている。これには、「部落地名総鑑」や大阪府岸和町市の住民による差別掲示などが含まれると思われる。

 人権委員会設置に関しては、法務省の外局としている。これではだめで、内閣府の外局とすべきである。その理由としては、①刑務所や入国管理施設等法務省管轄の場での人権侵害が深刻なのに、法務省の外局ではこれにたいする効果的なとりくみは期待できない②少子高齢社会の到来のなかで、たとえば厚生労働省にかかわった人権侵害も少なくない、さらにはすべての省庁にかかわった人権侵害が存在している、という点がある。

 細織の形態としては、中央に人権委員会および事務局を置き、地方には地方事務所および支所を置くとしている。これではだめで、少なくとも中央だけでなく、都道府県単位にも人権委員会と事務局を設置すべきである。その理由は、①差別事件や人権問題は通常地域で生起している②地方が事務局だけとなれば、法務省指主導の人権擁護制度の現状とほとんど変わらない、からである。
 人権委員会の構成としては、委員長(一人)と委員(常勤一人/非常勤三人)で構成され、ジェンダーバランスを考慮するとしている。また内閣総理大臣が衆・参両院の同意をえて任命するとしている。任期は3年である。
 わずか五人(しかも委員長が常勤として常勤は二人)で、真に効果的な救済ができるだろうか。事務局主導になるおそれが多分にある。また、ジェンダーバランスはむろんのこと被差別の当事者を含む多様性の確保を保障すべきである。
 事務局は事務局長と職員で構成され、事務局職員には弁護士資格をもつものを含むとしている。現行の法務省人権擁護局の職員や地方法務局人権部の職員をそのまま流用することが考えられているようであるが、これでは現状とまったく変わらないこととなる。最大限、職員は人権問題に精通した人材を独自に採用すること、法務省の関係職員をあてる場合でも、極力少人数にとどめ、法務省には戻れないようにすること。人権委員の場合と同様多様な人材を確保することが必要である。

 調停や仲裁のために「人権調整委員」をおくこととしている。どのような人が、何人程度、具体的には何を目的に選ばれるのかを分析する必要がある。とくに、部落解放同盟によって実施されている糾弾が妨害されるおそれがないか検討する必要がある。

 人権擁護委員については、人権委員会に市町村長から推薦された人権擁護委員をおくとしている。また、適任者を市町村長の意見を聞いて人権擁護委員とするともしている。
 この案では、現状の人権擁護委員とほとんど変わらない中央本部として、すでに指摘しているように、一定期間研修を義務づけた有給の「人権相談員」(仮称)とするなど抜本的な改革が必要である。

 救済手続きに関しては、一般的救済手続きと特別救済手続きとに分けられている。
 このうち、一般救済手続きとしては.広く人権相談に応ずるとともに、任意の調査、助言、指導、調整等の措置で対応するとされている。これらは.法務省人権擁護制度のもとで実施されてきたものと変わらないものだ。
 今回新たに想定されている特別救済手続きとして、公務員、私人による差別的取り扱い、虐待などについてに、過料の制裁をともなう調査がおこなわれるとともに、調停、勧告・公表、訴訟支援(資料提供、訴訟参加)の手法が講じられることとされている。
 この点に関していえば、公務員や公権力による差別や人権侵害については、独立した項目にして厳格な調査と措置がおこなえるようにする必要がある。
 つぎに、報道機関による犯罪被害者などにたいする報選によるプライバシー侵害などについては、報道機関などによる自主的なとりくみに配慮しつつ、調停、勧告・公表、訴訟支援(資料提供、訴訟参加)による救済をおこなうとされているが、報道機関の正当な取材と報道が妨げられるこのとのないよう最大限の配慮が求められる。
 差別助長行為等に関し、過料の制裁をともなう調査がおこなわれるとともに、勧告・公表、訴訟による差し止めの救済方法がとられるとしている。大阪府岸和田市の住民による差別掲示事件にたいして、この方策を活用した場合どの程度実効性のあるとりくみができるのかを吟味してみる必要がある。
 なお、救済手続きの特例として、雇用における差別的取り扱いなどについては、厚生労働大臣(船員に関するものについては国土交通人臣)も一般的放済手続きをおこなうとともに、特別救済手続きのうち調査及び調停、仲裁、勧告・公表、資料提供は、厚生労働大臣がおこなうものとされている。
 この点については、今回人権委員会が法務省の外局として想定されていることから、他の省庁にかかわった分野の差別や人権侵害をとりあげることができないことの具体的な現れ、と分析する必要があり、今後つぎつぎとこのような問題が生じることが予想される。この事例からも、各省庁より一段格付けが上位に設定され総合調整機能をもった内閣府の外局として人権委員会を設置したほうがよいことがわかる。

 人権委員会の所掌事項の中に、人権啓発が含まれているが、その具体的な内容は不明確である。この点に関していえば、少なくとも①差別や人権侵害の被害者にたいする救済の観点からの啓発②加害者にたいする反省を促すとともに再発防止に向けた啓発③差別や人権侵害にとりくんできた経験を生かした啓発④人権とのかかわりの深い特定職業従事者にたいする啓発などが必要である。
 また、人権委員会の所掌事項のなかに、政府・国会たいする助言が盛りこまれているが、政府・国会の尊重義務を盛りこむ必要がある。

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 これらの問題点のほか、人権委員会への相談について、直接の当車者のみでなく、民間団体や一定の資格をもった代理人にも認めるむねの規定が必要である。さらに、国際人権規約や人種差別撤廃条約をふまえた、明確な差別禁止規定または差別禁止法が必要である。今回の「人権擁護法」では、救済の観点からの緩やかな禁止規定にとどまっている。

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 法務省の考えでは、三月上旬に法案提出とのことである。通常国会でこの法律が成立した場合、二〇〇三年六、七月ころに人権委員会が発足するとのことであるが、大網に示されたような人権委員会が設置されでも、真に実効性ある救済は期待できない。また、この内容では、国連が国内人権機関に求められる基準をまとめたパリ原則をふまえたものとなっていないといわざるをえない。
 同盟各都府県連、各支部でも早急に討議をおこない、大綱にたいする批判の世論を高めていく必要がある。中央本部段階でも、人権フォーラム21や日本弁護士連合会などとの連携を強め大網批判のとりくみを強化する。また、与・野党にたいする申し入れをおこない、活発な国会での論戦を働きかりていく。
 われわれが「部落解放基本法案」の「規制・救済法的部分」に盛りこんだ内容や、国連が定めたパリ原則をふまえた、真に差別撤廃と人碑確立に役立つ人権委員会の設置を盛りこんだ法制定に向けて奮闘しよう。

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