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最高裁に事実調べを迫る闘
いを全力でおしすすめよう
「解放新聞」(2004.03.01-2159)

 

 1月29日に、政府の司法制度改革推進本部は、裁判員制度と刑事裁判の充実・迅速化についての骨格案を公表した。
 証拠開示ルールについては、「裁判員制度・刑事検討会」の井上座長の試案(昨年10月公表)と一言一句同じである。すなわち、開示証拠を類型化し、弁護側が証拠を特定し、重要性を明らかにして開示請求した場合に、検察官が相当と認めるときに開示するというものである。
 狭山事件で、この間、検察官が証拠を特定して請求すれば検討するといっているのと同じである。
 しかし、弁護側には、検察官の手元にどのような証拠があるのかわからないのであるから、このような要件を弁護側に課すことは証拠開示請求を実質的に不可能にすることは明らかだ。じつは、これが国連の規約人権委員会でも指摘されている現行の開示請求手続きの問題点なのである。
 こうした不備・不公平を改善するための司法改革であったはずである。いくつもの要件を弁護側に課したうえ、開示不開示の判断を一方的に検察官に委ねるというのでは、公正・公平なルールとはとうていいえない。

 このような証拠開示制度では、えん罪・誤判をなくすための司法改革にならないし、「弁護側が検察官手持ち証拠にアクセスできるよう実務と法律で保障せよ」という国連の勧告にこたえることにならないばかりか、裁判員制度のもとでの充実・迅速な審理はおこなえなくなるといわねばならない。
 現実に日本ではこれまで警察や検察の証拠隠しによって重大なえん罪・誤判事件がおきたことを忘れてはならない。警察・検察による証拠隠しの危険性を残して公正・公平な裁判にはならないし、裁判員として参加するわれわれ市民は責任をもって裁判をおこなうことはできない。
 裁判員制度への国民の不安が問題になっているが、不完全・不公平な証拠開示制度ではさらに国民に負担を強いることになる。また、弁護側が検察官手持ち証拠ヘアクセスすることを保障しなければ、審理は紛糾し、迅速な審理はおこないえないであろう。
 裁判員制度を導入し、充実・迅速な裁判をおこなうためにも公正な証拠開示制度の確立が不可欠なのである。しかし、骨格案では、司法制度改革審議会が答申した「証拠開示の拡充」にはならない。
 すくなくとも、証拠リストの作成・弁護側への提示を法制化することが必要であろう。
 さらに、弁護側に有利な証拠の開示は義務化し、警察・検察による無罪方向の証拠隠しがおきないようにすることも必要である。骨格案で示された証拠開示制度案の問題点の学習・教宣を強めよう。
 いまこそ国際社会に通用する公正な証拠開示制度を実現するよう与野党の国会議員に訴える必要がある。

 昨年12月10日に、狭山弁護団の山上益朗・主任弁護人が逝去された。斎藤第5鑑定の「2条線痕」の指摘を受けて、自白のおかしさの分析を中心に、最高裁に提出する補充書を最後まで執筆しつづけておられた。
 石川一雄さんのえん罪を晴らすために、「2条線痕」の意味や自白の矛盾・不自然さ、万年筆のおかしさなど大キャンペーンを展開し、最高裁に事実調べを迫る闘いを盛りあげるよう強く訴えておられたことを忘れてはならない。
 「2条線痕」は封筒上に犯行前に万年筆で書かれ消された痕跡があることを示している。しかも、斎藤第5鑑定補遺が明らかにしたように、抹消文字の存在は当時の埼玉県警の鑑識課員によっても確認されている。これらは、万年筆と無縁であった石川さんが脅迫状・封筒を書いた犯人ではないことをはっきりと示している。最高裁は、棄却決定を取り消して、東京高裁に差し戻し、斎藤鑑定人の尋問など事実調べをおこなうよう命じるべきである。
 弁護団は、山上弁護士の遺稿を受けついで補充書を作成し、3月にも最高裁に提出し、事実調ベ―再審開始を強く迫ることにしている。補充書では、これまで弁護団が提出した21通の筆跡鑑定、筆跡関係新証拠の意義をまとめ、事実調べを求める。また、斎藤第5鑑定と補遺によって明らかにされた「2条線痕」「抹消文字」の重要性を指摘し、自白の全面的な再検討が不可避であることを訴える。
 私たちも総学習を強化し、斎藤第5鑑定の「2条線痕」の重要性、自白のおかしさを市民に広げ、最高裁に事実調べを迫る世論を大きくしなければならない。
 山上弁護士の遺志を受けついで、何としても事実調べ―再審無罪を実現するよう特別抗告審の闘いを全力でおしすすめよう。


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