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部落問題資料室
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主張

 

「人権の核心は生存権と人間の尊厳」
中央福祉学校で具体的に深めよう
「解放新聞」(2007.09.10-2335)

 9月29日午後1時から10月1日正午まで福岡で『部落解放第15回中央福祉学校』をひらく。今回は、「福祉とまちづくり」、「人権文化の根づいた社会をめざして(NPO活動)」、「介護保険改正後の課題と問題点」、「産炭地フィールドワーク」、「社会的セーフティネット構想」、「今後の隣保館活動のあり方」を中心テーマとして学習と交流を深めることにし ている。
  1993年に、バブル経済の崩壊による経済不況と高齢化社会の到来という時代状況をふまえながら、第1回中央福祉学校を和歌山で開催してから15回目を迎えることになる。私たちが中央福祉学校で一貫して追求し続けてきたことは、「人権の核心は、生存権と人間の尊厳である」ということである。
  市場原理の競争主義にもとづく「格差拡大」社会の今日的状況は、一握りの富裕層と圧倒的多数の貧困層をつくり出し、「弱者切り捨て」を自己責任・自助努力論によって正当化するという社会的風潮をかもし出している。この社会的風潮のしわ寄せは部落をふくむマイノリティの生活と生存権を脅かしている。

 「おにぎりが食べたい」と最後の日記に書き記して、北九州市の52歳の男性が自宅で孤独死しているのが、7月10日に死後1か月以上の状態で発見された。「働けないのに働け」といわれ、半強制的に生活保護を辞退させられた結果である。北九州市では昨年5月にも一人暮らしの身体に障害をもつ56歳の男性が、ミイラ化した状態(死亡推定4か月前)で孤独死しているのが発見されている。生活保護を申請し続けていたにもかかわらず拒否された結末である。このような状況は、なにも北九州市だけの問題ではなく、全国各地で似たような事態が進行している。
  人間の尊厳や生存権が無視もしくは軽視され、三位一体改革の名のもとに財政問題だけが最優先に考えられるという行政姿勢が引き起こした問題である。困窮者からの生活保護の「申請」をいかに拒否し、受給者をいかに「辞退」させるかが有能な行政職員の証であるかのような評価が横行しているといわれる。
  このような状況を許していくならば、人権としての福祉は機能不全に陥り、人間社会は崩壊していき、差別と人権侵害が日常茶飯事の悲惨な社会になっていくことは間違いない。全国知事会は、今年3月23日に「生活保護制度の見直しに関する提言」を公表し、「セーフティネットの機能は国家責任により堅持されるべきもの」であることを強調しており、おおむね首肯できる内容となっている。
  部落解放運動は、これらの動向を見据えながら、「生存権と人間の尊厳」という人権の観点から、積極的に「社会的セーフティネット構想」を打ち出し、困難をかかえるすべての人が安心と希望をもって生きていくことができる社会の実現へ向けたとりくみを具体化させていくことが重要である。

 中央福祉学校は、ここ数年来参加者が増え続けているのが特徴的である。部落解放運動が地域の日常生活圏域から具体的課題をもって組み立て直されている姿として歓迎したい。同時に、福祉学校での学びや経験がさらに地域の部落内外をつなぐ有効なとりくみとして具体化され広がっていくことを望みたい。
  部落解放運動が、反差別・人権を軸として、困難をかかえるすべての人たちの生存権と人間の尊厳を守るための協働の闘いとして広がっていかなければ、マイノリティ同士がいがみ合い対立させられるという悲劇が起こってくることを肝に銘じておかなければならない。
  現実に、ワーキングプア(働く貧困層)という言葉に象徴される最低賃金も守られないような低賃金で働かされている人たちから、「汗水垂らして働いている自分たちの賃金よりも、何もせずに生活保護を受けている人の方が生活が楽だ」というような怨嗟の声があちこちで聞こえるようになってきている。不満と不平は、差別の温床である。手を結び合うべき人たちが対立させられる構図が、差別の機能であることを忘れてはならない。
  「人権の核心は、生存権と人間の尊厳」であることを、中央福祉学校でさらに理論的にも実践的にも深めるなかで、「福祉で人権のまちづくり」の具体化をおしすすめていこう。
  このとりくみこそが、危機的状況にある部落解放運動の社会的信頼の回復と再生への確かな道のひとつである。

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