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部落問題資料室
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主張

 

あいつぐインターネッ上での
差別事件に各地で強力にとりくんでいこう
「解放新聞」(2008.10.06-2389)

 情報に関連するテクノロジーは、歴史において予想もつかなかったような変革の口火を切ってきた。今日でも情報技術の進歩にともなう社会の急速な変化は、私たちの世界観を変え、世界観の変化がさらに情報環境を変えようとしている。それは部落問題でも例外ではない。「電子版・部落地名総鑑」差別事件をはじめとするネット上の差別事件の顕著な増加に端的にあらわれている。
  「電子版・部落地名総鑑」事件に代表されるように、ネット上は差別や人権侵害が野放し状態であるといっても過言ではない。ネット上の差別事件は、事件の態様を変えるような状況になりつつある。人間の差別意識が極大値に達しているのではないかと思われるような記述も稀ではない。それが電子空間というグローバルな世界で進行している。

 2006年9月、私たちが回収した「電子版・部落地名総鑑」は、これまで明らかになっている10種類の「地名総鑑」の「第8」と「第9」が電子化されたものであり、全国5千数百の被差別部落の所在地が正確に掲載されていた。これらの「電子版・部落地名総鑑」が流出すれば、取り返しのつかない事態になる。
  同年10月、「部落地名総鑑」と題するリストがインターネット上の掲示板「2ちゃんねる」に掲載され、それらの部落地名リストが何者かによってダウンロードされていた。
  これまでにも被差別部落の一部の地名がネット上に流出したことはあったが、リストには全国の数百の地名が列挙されており、これほどの数の地名が一度に流出したのははじめてであった。リストの内容は不正確な記述も多く、被差別部落でない地名も多数含まれていた。

 インターネットの特徴としてあげられるのは、時間的地理的制約がないことであり、不特定多数の人に情報発信ができ、匿名性が多くの場合保障され証拠が残りにくいということである。さらに複製や再利用がこれまで以上に容易であり、情報の連鎖性・更新性などを持つということである。
  そうした特徴をふまえた「電子版・部落地名総鑑」事件の差別性・問題点は、①これまでの差別事件のなかでも差別撤廃にもっとも重大な悪影響を与える②差別意識を活性化させ差別煽動性をもつ③電子空間上の差別事件を助長する④差別行為者、つまりネット上に被差別部落の地名リストを流出させた人物を特定するのがひじょうに難しい⑤流出させた犯人だけではなく、ネット上からダウンロードした人物を特定するのも困難をともない、回収が困難⑥きわめて重大な差別事件でありながら現状では予防が困難である⑦再発する危険がきわめて高い点、などである。

 インターネットの特徴を最大限悪用したネット上の差別事件は、一部を除いて十分な対抗措置や法的措置もとれないまま事実上放置されている。一定のとりくみを展開している公的機関や民間機関が存在するが、「焼け石に水」状態である。
  このような差別性・問題点をもつ流出事件をはじめとするネット上の事件を克服するためには、その背景を明確にし、それらの背景を取り除いていく粘り強いとりくみが求められている。

 とりわけグーグルが提供するグーグル・マップは、究極の「電子畢部落地各総鑑」につながる。検索エンジン・シェアトップは、日本ではヤフーであるが、世界では圧倒的にグーグルである。そのグーグルが日本国内で始めた「グーグル・マップ」の「ストリートビュー」というサービスでは、キーワードを打ち込むだけで必要な地図だけでなく、その
街並みを360度全方位で見ることができるパノラマ写真まで提供される。この機能は現在でも日本の主要都市をカバーしており、これからカバーされる都市はさらに増えていく。そのパノラマ写真に写っている人びとや車のナンバープレートは識別できないが、自宅周辺の知人の車であれば誰の車であるかが識別できる。このシステムは先に指摘したインターネットの特徴と重ね合わせれば、容易に「写真付き電子版・部落地名総鑑」に変わりうる。すでに「ハイテク電子部落地名総鑑」というスレッドが「2ちゃんねる」で立ち上げられた。

 フランス、イギリス、ドイツ、カナダ、イタリアなどの諸外国では、プライバシー保護、個人情報保護の観点から、このサービスにたいしてきわめて憤重な態度をとっている。日本ではそのような声はほとんど聴かれない。今一度、インターネット上の差別事件へのとりくみを各地で強化しなければ、これまでのとりくみが水泡に帰す。
  現代は現実空間と電子空間という異質な空間を行き来する社会である。こうした現実をふまえた新たな社会のルールを創造するという発想が、差別撤廃・人権確立の分野にも強く求められている。ネット上に人権ルールを確立するための粘り強いとりくみを、全国各地で推進していこう。

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