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えん罪事件の教訓をふまえ、
東京高裁は狭山事件の再審開始を

「解放新聞」(2010.07.19-2478)

 2010年5月13日に東京高裁でひらかれた狭山事件再審請求の3回目の3者協議で、東京高検の検察官は、弁護団に5項目36点の証拠を開示した。これは、昨年12月の東京高裁の開示勧告に応じたものだ。開示された証拠は、殺害現場とされる雑木林に隣接する畑で、事件当日、農作業をおこなっていた0さんに関する捜査報告書、捜査段階で集められた石川さんの筆跡資料、取り調べ状況にかかわる捜査報告書、取り調べの録音テープである。
  裁判所による3者協議の開催、開示勧告というなかで、36点の証拠開示がおこなわれたことは再審実現に向けた大きな一歩である。弁護団の粘り強い証拠開示に向けたとりくみ、石川さんの高裁前での訴えと、はばひろい市民の声の成果でもある。
  狭山弁護団は、今回開示された証拠を専門家の協力もえながら、分析、検討し、新証拠を積み重ね、事実調べを求めていくとしている。一万、東京高検は、殺害現場の血痕検査報告書、当時の実況見分で雑木林を撮影した8ミリフィルム、未開示の死体写真については「不見当」(見当たらない)と回答して開示していない。弁護団は、これまで55項目の証拠開示勧告を求め、8項目について開示勧告が出され、そのうちの5項目だけで36点の証拠が開示された。まだまだ開示されていない証拠があることは明らかである。
  今回の証拠開示をバネに、残された証拠の開示と事実調べ・再審開始を求める声を大きくしよう。

 検察官は、殺害現場とされる雑木林の血痕検査(ルミノール反応検査)報告書について「不見当」(見当たらない)と回答している。
  殺害現場についての石川さんの自白は6月23日に始まっているが、警察による殺害現場の実況見分調書は7月4日付け、同月8日付けのものしか明らかにされていない。事件の核心ともいうべき殺害現場について、警察が、これ以外に何ら裏付けをとらなかったとは考えられない。「(6月)27日朝から自供にもとづいて殺害現場、死体発見現場を中心とした実地検証をおこなった」などの新聞記事もある。
  また、7月4日付けの実況見分調書には、自白で死体を一時隠したという芋穴について、ルミノール反応検査をおこない、陰性(血痕はなかった)と書かれている。被害者の死体の後頭部には傷があり、出血があったと考えられたのであるから、現場の血痕を調べるのは当然であろう。第2現場ともいうべき芋穴について血痕検査をおこないながら、第1現場である殺害現場に関してルミノール反応検査報告書などの捜査書類がないことは考えられない。
  東京高検の回答には市民常識からしても疑問がある。弁護団は、東京高検の回答にたいして、反論の意見書を東京高裁に提出するとしている。
  証拠開示と事実調べをとおして、殺害現場の裏づけはあるのか、自白が真実かどうかについて、徹底した究明が必要である。まだ証拠開示は終わっていない。東京高裁にさらに開示勧告を求めよう。

 今回の検察官の回答では、殺害現場という自白の核心部分の裏づけがなかったということになる。一方で、弁護団は、犯行現場とされる雑木林の隣の畑で、事件当日、農作業をおこなっていた0さんの「悲鳴も人影もなかった」という証言を新証拠として提出しており、それに関連する捜査資料が今回、さらに証拠開示された。0証言は殺害現場という自白の核心が虚偽であることをしめしている。
  「犯行現場」の自白の疑問は、被害者との出会いから雑木林まで連行したという自白の疑わしさをさらに深める。そもそも、活発な高校生が見知らぬ男についていったという自白が不自然であるし、白昼であるにもかかわらず、目撃者はだれもいない。雑木林内で被害者の万年筆を使って脅迫状を訂正したという自白の疑問も明らかになっている。さらに、殺害後、死体を手でかかえて200メートルも離れた芋穴まで運び、逆さづりにして隠したという自白がありえないことも科学的に指摘されている。石川さんの自白の疑問はさらに深まり、自白の信用性は大きく揺らいでいるといわねばならない。
  新証拠を総合的に評価すれば、狭山事件の確定判決である2審・東京高裁の有罪判決に合理的疑いが生じていることは明らかだ。
  東京高裁の岡田雄一裁判長は、今後の3者協議で、さらに証拠開示を勧告するとともに、被害者の悲鳴はなかったという0証言などの事実調べをすみやかにおこない、再審を開始すべきである。
  足利事件で、弁護団が求めていたDNA鑑定のやり直しを東京高裁がおこなったことで、管家さんの無実が判明したことを忘れてはならない。布川事件では、「不見当」といっていた毛髪鑑定などが開示され、再審開始の大きなカギとなった。
  氷見、志布志、そして足利、布川とつづいたえん罪事件の無罪判決、再審開始決定は、取り調べの全過程の可視化(録画・録音)の必要性とともに、検察官による手持ち証拠の開示、裁判所による事実調べが、えん罪の防止、誤った裁判から無実の人を救済するために必要不可欠であることを示している。
  東京高裁は、この間のえん罪の教訓をふまえ、狭山事件の再審でも、証拠開示と事実調べをすみやかにおこなうべきである。

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