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部落問題資料室
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新綱領のもとに新たな解放運動を大胆におしすすめよう

「解放新聞」(2011.04.11-2514)

 3月にひらいた第68回全国大会で、新綱領を採択した。敗戦直後の1946年に水平社運動の再建として結成された部落解放全国委員会から、発展的改組という形で1955年に部落解放同盟に改称されて以降、5回目の新たな綱領である。最初の綱領改正が1960年、続いて1984年、1997年、そして今回という経緯である。来年の3月に全国水平社創立90周年を迎える段階で新たな部落解放運動を大胆におしすすめようとの決意をこめた新綱領採択であった。
  新綱領策定にあたっては、2008年7月に中央理論委員会(委員長=大野中央執行副委員長)を再開して異体的な検討作業を開始し、2010年3月の全国大会で「綱領改正案」の提案をおこない、1年間をかけて組織内外の意見を集約しながら修正を加え、2年7か月の時間をかけて論議が続けられてきた。


 新綱領策定への時代認識(綱領改正の背景)は、つぎのようものであった。第1に、「特別措置法」時代33年間のもとで、部落差別の実態が大きく変化してきていること。第2に、2002年3月末の「特別措置法」期限切れ後に、同和行政の後退や人権行政の混乱という状況が生じていること。第3に、2006年の一連の不祥事で部落解放運動に深刻な事態が惹起し、「部落解放運動への提言」(座長=上田正昭・京都大学名誉教授)でも抜本的な運動・組織への改革が指摘されてきたこと。第4に、21世紀初頭からの新自由主義路線の本格的な台頭で急速に進行した格差拡大と差別構造の拡大・深化という状況のもとで部落差別撤廃のとりくみの成果が損なわれていく逆流現象が起きていること。第5に、このような時代背景をふまえながら、困難な状況を乗り越え、今後の新たな部落解放運動の基本方向を打ち出すことが求められていること。第6に、水平社90周年はいうに及ばず、100周年という節目を迎える部落解放運動のあり方を見すえつつ、大胆かつ真剣に議論していかなければならない段階である、ということである。

 今回の新綱領の改正要点は、つぎの6点である。第1は、「部落民」、「被差別部落」に関する概念を運動的に定義し、曖昧模糊としている組織論や運動論に明確な筋道をつけるということである。第2は、部落差別問題が明治期以降の近代日本社会で再編された社会問題であり、現行憲法の基本精神が具体化されれば現体制のもとでも解決可能であることを明示していることである。第3は、「3つの命題」を継承した「差別の社会的機能」論に立脚し、差別の特徴的なあらわれ方である「排除・忌避・孤立」に着冒して、これを克服する方向性として「社会連帯」を打ち出していることである。第4に、社会連帯を実現するにあたって、さまざまな差別の複合性や共通性を重視し、国内外の協働行動の必然性を強調していることである。第5に、以上のような要点をふまえて、部落が解放された状態、そのための社会的条件および具体化への基本目標を提示し、部落解放同盟がめざす方向性を明確にしていることである。第6に、改めて部落解放同盟が全国水平社の歴史と伝統を正当に継承しており、自主解放の旗を高く掲げることを宣言していることである。

 新綱領の要点は以上のようものであるが、今回の新綱領の特徴は「部落解放同盟綱領解説のための基本文書」(以下「解説書」)を添付したことである。この「解説書」は、綱領には書ききれなかった問題にも言及しており、綱領の解説書であると同時に、今後の「解放理論」として豊富化させていく性質の文書でもあり、今後とも組織内外からの建設的な議論を通じて深められていく必要がある。
  「解説書」では、新綱領が「3つの命題」を中心とするこれまでの解放理論を発展継承したものであることを示しながら、継承すべき積極面と理論的限界に言及しつつ、今後の理論的方向性を提示している。
  とりわけ、「近代から現在に至る部落差別の実能菱遷と現状認識」を明らかにしながら、今日的な部落差別実態の全体像を明確に把握するための「5領域論」と「5形態論」を押し出している。
  また、「部落差別を生みだし支える社会的背景の分析」で、3つの側面からのアプローチということで、「部落差別意識を支える思想と意識(社会意識)」、「部落差別を温存助長する近現代の日本社会の構造(社会構造)」、「社会的価値・規範をめぐる個々人の存在証明の方法と格闘(人間のあり方)」という背景を提起している。

 部落解放同盟が新綱領にもとづいて展開しようとしている新しい部落解放運動とは、自力自闘の「自主解放」の精神を基調として、差別を生みだす社会関係の改革・打破をめざし、各界各層の人たちとのしなやかな「社会連帯」をもとめながら、部落からしたたかに外へ打って出ようということである。
  そのために、今年の運動方針では、「誰かに何かを求める運動から自分たちの力で必要なものは創り出す運動」へと脱却をはかり、「1人立つ力」と「地域力」を高めることにつながる「社会性のある仕事づくりの事業」を創出することを第1の重点課題として、持続可能な組織と運動のあり方を確立する方向を打ち出しているところである。
  各級機関とすべての同盟員は、新綱領を徹底的に読み込んで日常活動のなかで創造的に血肉化させていく営みを通じて、新たな部落解放運動の創出に向けて大胆な実践を地域から展開していこう。


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