部落問題資料室
部落解放同盟ガイド

2012年度(第69期)一般運動方針

第T部 基調方針
一 部落解放運動をめぐる情勢のおもな特徴


3 人権と環境をめぐる情勢

  @景気後退の長期化、失業者やワーキング・プアの増大、民族排外主義的な風潮の高まりのなかで、悪質な差別事件や人権侵害があとをたたない現状があります。2009年12月4日、京都市にある京都朝鮮第1初級学校に、「在日特権を許さない市民の会」を名乗るメンバー10数人が押しかけ、大音量の拡声器で差別的な暴言を吐き続け、授業中の児童や教員を恫喝・脅迫するという悪質な事件が起きました。また、同会は、2010年4月、徳島県教組の事務所に乱入、刑事告訴されていますし、さらに昨年1月には、同会の副会長が奈良県御所市の水平社博物館前で許し難い部落差別街頭宣伝をおこなっています。この事件は現在裁判中ですが、前2件については、いずれも地裁段階で有罪判決が出されています。こうした事態に効果的に対応していくためには、救済機能と教育・啓発機能、さらには提言機能をもった国内人権機関(人権委員会)の設置と、さらには「差別禁止法」の制定が焦眉の急を要する課題となっています。また、「自由権規約」や「社会権規約」、さらには「女性差別撤廃条約」などの個人からの通報を認めた選択議定書の早期批准と人種差別撤廃条約第14条(個人および集団からの委員会への通報)の受諾宣言が求められています。
  A公正な裁判を確保するための重要な方策として、2009年5月から裁判員制度が導入され、やがて3年が経過しようとしています。この制度が所期の目的を達成するためには、全証拠の開示と取り調べ過程の全面可視化が不可欠であるとの指摘が各方面からおこなわれています。この間、鹿児島の志布志事件、富山の氷見事件などでえん罪が明らかになるとともに、足利事件では再審で無罪が確定しました。また、布川事件は昨年5月に再審で無罪判決が出されました。また、11月には、福井女子中学生殺害事件でも名古屋高裁金沢支部で再審決定が出されています。さらに袴田事件や東電OL殺人事件でも、DNA鑑定や証拠開示によって再審に向けて大きく動きだしています。これらの事件に共通しているのは、密室での自白が強要と、新たに開示された証拠などによってこれまでの有罪判決の不当性が明らかにされてきたことです。このようにえん罪をなくし、公正な裁判を確保するためには全証拠の開示と取り調べ過程の全面可視化が不可欠であり、早急な法制度の整備が求められています。
  B日本政府は、2007年9月、「障害者権利条約」に署名していますが、その後、この条約の批准に向けて国内法制度を整備するため、2009年12月、内閣総理大臣を本部長にすべての大臣によって構成される「障がい者制度改革推進本部」が設置されました。また、2010年1月には、当事者である障害者が参画した「障がい者制度改革推進会議」が設置され、「障害者基本法」の抜本的改正、改革集中期間での推進体制、「障害を理由とする差別の禁止法」などの制定、「障害者総合福祉法(仮称)」の制定を軸に国内法整備に向けた論議が積極的に積み重ねられています。これらのとりくみをふまえ、昨年7月、「障害者基本法」の改正が実現しました。新しい基本法は、障害者問題を「狭い福祉から人権の問題へ」、障害者を「保護の客体から権利の主体へ」という根本的な思考の転換をおこなうためのものであり、高く評価できるものとなっています。さらに障害者施策の監視機関として障害者政策委員会の設置が明記され、担当部署の大臣にたいして障害者基本計画の実施についての勧告権をもつとされています。2009年からはじまった障害者制度改革は、その第一歩となる「障害者基本法」の改正を終え、引き続き「障害者自立支援法」の廃止と「総合福祉法」制定や、「差別禁止法」の国会上程なども控えている状況であり、市民社会を巻き込んだ広範なとりくみが求められています。
  C昨年7月、タイを中心としたインドシナ半島の大洪水では1000人以上の死亡者と行方不明者を出しました。アメリカの東海岸でも、8月のハリケーン「アイリーン」では40人以上の死者を出し、日本でも、9月には台風12号が奈良、三重、和歌山3県を中心に甚大な被害をもたらし、73人が死亡、行方不明者も多数出ました。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、昨年11月、特別報告書を発表し、地球温暖化と異常気象の関連性を明確にしました。温暖化は、いよいよ日常生活や経済活動に直接的な影響をおよぼしはじめていますが、新たな枠組みづくりが求められています。
  D昨年12月、南アフリカのダーバンで開催された第17回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP17)では、2012年末に期限が切れる現行の京都議定書を「延長」することで協議を終えました。ただ、延長期間は未定で、日本、カナダ、ロシアは延長には加わらないとの意思表示をおこないました。一方、米中を含むすべての国を対象とした新たな枠組みを2020年に発効させる合意を採択しましたが、その内容は先送りされています。
  E福島第1原発の事故をふまえたとき、原発は安全で安価なエネルギー源であるという従来の主張は、「神話」にすぎないことが明らかになりました。このようななかで、本年7月から「再生可能エネルギー特別措置法」が施行されます。同法では、再生可能エネルギー源を用いて発電された電気について、一定期間・価格で電力会社に買い取りを義務付けています(価格、期間の詳細は本年春に経済産業省が決定)。従来も固定価格買い取り制度はありましたが、太陽光発電だけでした。今回は、風力、水力、地熱、バイオマスが追加されました。日本では、太陽光、風力、地熱による発電が有力視されています。
  F持続可能な経済開発と国連ミレニアム開発目標(MDGs)の達成には、エネルギーへのアクセスがきわめて重要であることから、国連は、2012年を「すべての人のための持続可能エネルギーの国際年(International Year of Sustainable Energy for All)」と定めています。昨年2月国連総会で採択された決議では、「すべての人のエネルギーへのアクセスを確保し、伝統的なエネルギー資源、よりクリーンな技術、そして新しいエネルギー源の持続可能な利用を通じ、環境を保護しようとする国連システムのとりくみに留意する」ことをよびかけています。
  G2010年10月、企業や自治体などの組織にたいして、人権や環境面での社会的な責任を果たすことを求めたガイダンスとしてISO26000が発行しました。これは、1999年の国連事務総長提案によってとりくまれているグローバルコンパクトとともに、21世紀を人権と環境が守られた世紀にしていくためにきわめて重要な役割を果たすものです。今後、企業や自治体などで積極的に取得するように働きかけていくことが求められています。
  H国連は、また、今年を「国際協同組合年(International Year of Co-operatives)」と定め、貧困削減や雇用創出、社会統合など、協同組合による社会経済開発への貢献に光を当てています。そして「Co-operative enterprises build a better world(協同組合はよりよい世界をつくる)」のテーマのもと、同国際年を通じて世界中の協同組合の成長と設立を促します。社会主義の崩壊、新自由主義の破綻、福祉国家の行き詰まりという歴史的転換期にあって、国、自治体、NPO・NGO・社会的企業・協同組合を組み合わせた社会が21世紀の主流になる可能性が大きくなっていますが、協同組合の強化発展が求められています。
  I今年は、全国水平社創立90周年の年です。水平社宣言は、日本での最初の人権宣言として多くの人びとに大きな影響を与え続けています。また、90年におよぶ運動は、幾多の試練を乗り越えて日本のみならず世界での差別撤廃と人権確立に貢献してきています。水平社宣言の精神と90年の運動の教訓をふまえ、各方面で人材を育て、運動を強化していくことが求められています。

4 部落のおかれている状況と差別の実態
(1)脆弱な部落の教育・労働・産業・生活実態を直撃する経済危機
  @1995年の日経連「新時代の日本的経営」(非正規社員の拡大志向)と政府の規制緩和路線、そして2008年9月の「リーマン・ショック」以降の世界同時不況のなかで、日本の非正規雇用労働者は1700万人をこえ(全労働者の3分の1)、年収200万円以下のいわゆるワーキング・プアは、約1100万人と全労働者の約25%にもおよび、格差と貧困が拡大しています。とくに相対的に権利基盤が弱い若年層への打撃は大きく、国際的にも「社会的排除と青年」は大きなテーマとなっています。たとえば日本の「子どもの貧困率」は15.7%(ひとり親世帯では54.3%)と先進諸国のなかでも高い数値です。就学援助を受ける小中学生は約140万人(全小中学生の約14%)で、この10年間で倍増しています。
  A全国学力調査結果でも、就学援助を受けている低所得層の子どもほど低学力傾向がいちじるしく、さらに「知識基盤型社会」の現在、低学歴層ほど不安定就労に就かざるを得ないという「教育と労働の悪循環」の傾向が強まっています。また、世帯類型では「ひとり世帯」家族が30%をこえて初めて一番多くなり、児童虐待は相談件数だけで5万件をこすという社会の不安定化・孤立化を顕著に示しています。
  Bこうした社会構造は、部落の若い世代の教育・労働実態などにも深刻な打撃をもたらしています。2006〜10年に実施された愛知・埼玉・大阪・兵庫・奈良・京都の部落女性調査結果(約1万2千人)では、20〜30歳代の若年層でも、最終学歴で高校中退者を含む中学校卒業割合が約10%強と府県平均より2倍高く、非正規雇用が約6〜7割と府県平均より1.5〜2倍高い実態です。また「パートナーや恋人関係にあった者から」「蹴られたり叩かれ」た経験があった女性が約3〜4割あります。
  C2010年に中央本部が実施した部落青年に関する雇用・生活調査(約820人回答)では、さらに深刻な結果がでています。「差別を受けることへの不安」が約2分の1、「部落出身という意識がある」が約4分の3という結果もでています。また部落のなかで比重が高い建設業関係者も倒産・廃業の波を大きく受け、いっそう若年層の雇用不安定を招いています。

(2)社会の不安定化と自己責任論のなかで後退する人権・部落問題意識
  @経済危機と社会の不安定化のなか、社会・経済・政治的な仕組みに問題があるにもかかわらず、その原因を覆い隠すための「自己責任論」がいぜんとして根強く存在しています。その結果、一方では何らかの挫折にともなう自己否定感・孤立感が強まっています。そして解決しない不安や不満の解消の矛先は、国権主義や反人権主義と安易に結びつき、部落をはじめとするさまざまなマイノリティにたいするインターネット上での差別・誹謗中傷・排外主義の横行、あるいは「誰でもよかった」という言葉に象徴されるような無差別殺人事件や大量差別投書・落書事件として顕在化しています。また、相対的に安定した正規労働者を基本とする労働組合、とくに官公庁の労働者・労働組合、あるいは部落解放運動や同和行政へのバッシングが意図的に仕向けられています。さらに基本的人権の尊重を顧みない、家族・地域・民族・国家への忠誠を求めた社会規範・道徳性が声高に強調されています。
  Aこうした結果、2007年度実施の内閣府「人権擁護に関する世論調査」結果でも、人権侵害が増加したと感じている人が約42%におよび前回調査より増加しています。
 また「人権教育・啓発推進法」(2000年)制定以降のとりくみにもかかわらず、意識状況にはさまざまな問題があります。先の「人権擁護に関する世論調査」でも、「基本的人権は侵すことのできない永久の権利として、憲法で保障されていることを知っていますか」という問いにたいして、2割をこえる人が「知らない」と回答し、しかもその割合は増加傾向にあります。近年の各府県人権意識調査でも、地域によって数値のばらつきはありますが、部落出身者との結婚忌避(07年愛知県、08年奈良県・宮崎県・兵庫県、10年大阪府)や部落が存在する校区に住むことへの忌避(08年奈良県、10年大阪府)も1〜5割程度見られます。

(3)陰湿で巧妙な差別事件の増加と出身者の苦痛・不安
  @このような政治の反動化や経済不況のもとで、社会不安が増大し、陰湿で巧妙な差別事件が急増しています。第1点目は、土地差別調査事件での調査会社5社、広告代理店13社、ディベロッパー15社への確認会や糾弾会を通じて、マンション建設に関する土地購入について部落への忌避意識があったこと、契約書すら存在せず口頭で依頼がなされていたこと、部落にマンションを建設しても売れないという現実がある以上、利益を追求する企業としては「差別ではない」と主張する企業が存在していることなどが明らかになってきています。これらはISO26000が禁止している「差別への加担」に当たります。土地差別調査事件の防止に向けて、これまでの「大阪府部落差別調査等規制等条例」を改正し、昨年10月1日から土地取引で調査をおこなうさいに、部落の所在地を調べたり知らせたりする行為などを規制することができるようになりました。
  A第2点目は、インターネット上の差別事件が悪質化していることです。「グーグルマップ」を利用して部落の所在を書き込み、差別地図をネット上で公開するなど差別的に悪用されていることが発覚し、抗議と削除要請をグーグル社や法務局、関係行政などへおこなってきました。いわばインターネット版「部落地名総鑑」で、差別に悪用される恐れがあり、早急なとりくみが求められています。
  B第3点目は、戸籍謄本などの不正請求など差別につながる個人情報の収集にかかわる差別事件です。昨年11月のプライム戸籍不正取得事件では、東京都内の司法書士、元弁護士など5人が大量の戸籍・住民票を不正取得したとして逮捕されましたが、興信所などから依頼された不正取得は1万件以上にのぼっています。また、山口県長門市では、法律にもとづいた本人確認をおこなわずに住民票と戸籍謄本を他人に不正発行したとして、2人の職員が懲戒処分になっています。今後、「本人通知制度」の導入のとりくみと連動させながら、真相究明のとりくみが求められます。
  C第4点目は、長引く不況のもと、閉塞感が深まる社会情況のなかで、差別・排外主義の台頭が強まっており、部落や在日コリアンなどにたいする公然とした差別扇動が起こっています。奈良県では、水平社博物館前の路上からハンドマイクで「目の前にあるエッタ博物館、非人博物館」「いいかげん出てこい、エッタども、エッタ、非人」などと水平社博物館や地区住民にたいして差別発言を連呼した事件が起きています。財団法人水平社博物館は、その行為をおこなった「在日特権を許さない市民の会」の副会長を名誉毀損で奈良地方裁判所に提訴しました。また、大阪市長選挙をめぐって公然と橋下徹・前知事の出自を暴く差別報道をした「週刊文春」「週刊新潮」にたいして抗議と申し入れをおこなってきたところです。
  D第5点目は、経済不況のもとで、雇用差別につながる公正採用選考違反事例が増加していることです。各都府県連で労働局、経営者団体などへ就職差別の撤廃に向けて要請行動がとりくまれました。
  E第6点目は、多発している差別落書・投書・電話・電子メールなどの事件です。兵庫県香住町では、東日本大震災への義援金募集を装いながら、部落解放運動を誹誘中傷した「なりすまし」差別ハガキ事件が起きています。

(4)5領域からの差別実態の本格的な調査実施を
  @部落問題に関わる調査の多くは、「同和地区住民生活実態調査」と「市民人権意識調査」そして差別事象の集約分析、の3つの領域でとりくまれてきました。しかし差別の現実は、部落の側にあらわれる@実態的被差別の現実A心理的被差別の現実、部落以外の側にあらわれるB実態的加差別の現実C心理的加差別の現実、そしてD差別事件の実態という5つの領域があり、今後ともそれらを総合的に把握する必要があります。
  A「特別措置法」が終了して10年が経過しますが、人権・同和行政や人権・同和教育の後退がみられます。また、この10数年におよぶ貧困の増大、特に雇用と生活の不安定化の進行といった情勢の大きな変化が部落におよぼしてきた影響を本格的に明らかにすることが求められています。

二 部落解放運動の基本課題
1 本大会の意義と任務
(1)世界経済不況と東日本大震災を見すえ、新たな社会づくりをめざそう
  @2011年は、まさに激動の年でした。アメリカを中心としたグローバル経済が破綻の兆しを見せはじめ、ギリシャの金融破綻や20%をこえる失業率にあえぐスペインなどに象徴されるEU圏の経済不況と政治不安、さらに中東での独裁政権にたいする民主化闘争の激発など、世界が新たな社会のあり方を求めて大きく揺れ動いています。当然のことながら日本もその例外でなく、政治・経済・社会のあり方が根底から問い直されています。
  Aそのようななかで、1995年1月17日の阪神・淡路大震災を上回る規模で東日本大震災が発生し、「2011年3月11日」は決して忘れてはならない日となりました。想像を絶する大地震と大津波によって、筆舌に尽くしがたい多くの人命が犠牲となり、多くの地域が跡形もなく失われたことを深く心に刻んでおかなければなりません。あまつさえ、「安全神話」をうたいあげてきた福島原発が壊滅的な破損事故を引き起こしました。放射能汚染が広い地域を覆い、恐怖と不安のどん底に陥れ、無責任な風評被害を生み出しました。さらに、福島の人びとにたいして差別と排除の風潮さえ醸成されていきました。
 B一方で、大震災直後から世界各国や国内の救援・復興支援のボランティア活動が果断に展開されてきています。被災当事者の人たちも深い心の傷をかかえながらも「ふるさと再生」への粘り強いとりくみを開始しています。大震災の検証活動がさまざまな分野でおこなわれており、効果的で重要な防災システムのあり方が提案されていますが、人知をこえる天災の力に立ち向かう最大の力は、「人の絆」であることをあらためて私たちに突きつけてきています。排除・分断され孤立を余儀なくされている今日の日本社会のありようを、「人の絆」の再生によって作り直していく方策と場作りが求められています。同時に、人災である福島原発の事故は、過去の「安全神話」を完全に打ち崩しました。エネルギー政策や環境問題と真剣に向き合うなかで、「本当の豊かさとは何か」を問い続けながら、「脱原発への道」を明確に選択していくことが大事です。
 C「もっとも困難をかかえた人たち」への視座を大切にしながら、大震災直後から被災地の人たちにたいする支援カンパ活動や復興ボランティア活動の継続が求められています。これらの活動を継続することと並行して、昨秋の西日本を襲った台風12号による豪雨被害などにもみられるように、大震災や大洪水の天災がどこでも起こりうる可能性があることを念頭において、みずからの生活圏域で「人の絆」を再生していくとりくみを強めていくことが必要です。
  それは、とりもなおさず、現在部落解放運動の最重要課題としておしすすめている「人権のまちづくり」運動を定着させ、それぞれの地域から排除・忌避や孤立を克服し「人と人との豊かなつながり」をつくり出していく具体的なとりくみを強化していくことです。

(2)人権・平和・環境を基軸にした政策実現を徹底的に追求しよう
  @2012年は、世界的な経済不況と格差拡大という社会不安を背景にして、世界も日本も「政治の年」になることは必至です。アメリカ、フランス、ロシア、韓国などで大統領選挙が実施され、中国でも指導部が交代しようとしており、世界の政治が大きく変わろうとしています。
  A日本でも、野田政権が「社会保障と税の一体改革」、「TPPへの加盟」、「原発」、「武器禁輸三原則の緩和」などで危険な方向に政治の舵をとろうとしています。第180通常国会ではこれらの問題をめぐって激しい国会論戦が展開されており、解散・総選挙含みの緊張した政治情勢になっています。
  B部落解放同盟は、民主党との強い支持・連帯関係にあります。しかし、民主党政権発足の時にも明らかにしてきたように、民主党政権が打ち出す政策については、人権・平和・環境を基軸にして是是非非の判断をするという基本姿勢を堅持することが重要です。
  C人権・平和・環境を基軸にした政策展開を求めて、政治課題に積極的に関与し、的確に政策提言と発信をおこない、人権の法制度確立へのとりくみを強化していくことが、いまほど部落解放同盟に求められているときはありません。それゆえに、「人権侵害救済法」の制定や「取り調べの全面可視化と証拠開示」の法制化、さらには「第2次セーフティネット構想」の策定・発信のとりくみなどが重要な意味をもっていることを確認しておく必要があります。
  Dこのような政治にたいする基本姿勢に立って、解散・総選挙がいつあってもそれに対応できるような政治闘争態勢を固めておかなければなりません。

(3)全国水平社創立90周年を契機に新綱領具体化への大胆な実践を展開しよう
  @1922年3月3日に京都岡崎公会堂で全国水平社が結成されて90年という長い歳月が経過しました。あらためて、「90年もの長い闘いをよく続けてきた」という感慨と誇りを感じるとともに、「90年も闘ってきてまだ部落差別が克服できていない」という義憤と焦燥の思いが交錯します。
  A同時に、90年にわたる部落解放運動が、日本の民主主義と人権を底辺から底上げしていく原動力になってきたということであり、このことにたいする揺るぎない誇りと自信を抱くことができます。それは第1に「差別撤廃・人権確立」を日本社会での社会的価値観や規範として定着させつつある段階にまで押し上げ、第2に水平社宣言にもとづく部落解放運動が多くのマイノリティの人たちの権利回復と人間的誇りを取り戻すための波及的効果をおよぼし、第3に反差別国際運動(IMADR)の結成と活動をとおして国際人権基準を進展させる闘いの重要な一翼を世界のマイノリティとともに担ってきている事実として確認することができます。こうした水平社宣言の今日的意義を広く伝えるために、ユネスコの世界記憶遺産の登録にもとりくんでいきます。
 B全国水平社創立90年の到達点と意義を今日的に確認しながら、これからの部落解放への確かな道筋をつかみとる真剣なとりくみこそが求められています。そのとりくみの第1は、部落解放運動の原点を再確認することです。その原点は、水平社創立宣言が端的に示しています。とくに「人間を尊敬する事によって自ら解放せんとする者の集團運動」であることと、「人の世の冷たさが、何んなに冷たいか、人間を勦る事が何であるかをよく知ってゐる吾々は、心から人生の熱と光を願求禮讃する」という思想が今日的には重要です。換言すれば、部落解放運動の原点は「人間にたいするやさしさと信頼」だといえます。それこそが、90年の長きにわたって運動を支えてきた根本であり、現在と未来の運動や組織に生きいきと継承することが大事です。
  C第2は、部落差別とは何かを根源的に問い返し、具体的な差別克服への方策を打ち出すことです。90年かけてなお克服できていない部落差別を、個人的な感覚論や抽象論ではなく、その具体的な現象形態と領域での差別実態の正確な把握によって、部落差別を克服できる具体的な方策を提示することです。
  結論的にいうならば、部落差別の具体的なあらわれである「社会的な排除・忌避・孤立」という特徴に着目し、これを克服する具体的な営みこそが部落差別を克服する最短の道であることを意識化することです。
 D第3は、全水90年の正負の遺産を引き受けて、継承すべきものと克服すべきものをしっかりと峻別する作業をおこない、これからの新たな展望を切りひらくことです。すなわち、伝統を現在と未来につなぐとりくみを真剣に追求することです。当然のことながら、この作業は、「特別措置法」時代33年間の総括や「特別措置法」失効後10年の現状認識と総括も射程に入れておこなうことが重要です。
  そのときに大事なことは、無誤謬主義からの脱却という姿勢を堅持することです。「部落解放運動は絶対的正義」との傲慢や教条を乗り越え、多くの社会的貢献につながる成果も獲得してきましたが、一方で少なからず誤りや弱点ももってきたことを率直に認めることです。その現実に立脚しながら、継承・発展させるべき成果を明確に認識するとともに、克服すべき誤りや弱点を隠蔽することなく真摯に教訓化することが問われています。
  E第4は、幹部活動家自身が、「行動指針」に示されている基本姿勢を血肉化し、差別撤廃・人権確立を担う団体にふさわしい日常的な言動をとる意識改革を徹底していくことです。まさに、「卑屈なる言葉と怯懦なる行為によって、租先を辱しめ、人間を冒?してはならぬ」ということを肝に銘じて、人権団体としての不動の信頼を確立していくことです。
  F第5は、このような全水90年の意義ととりくみをふまえたうえで、昨年採択した新たな同盟綱領に掲げた13項目の「基本目標」を画餅にすることなく、具体的実践を展開することによって、部落差別克服への現実的な展望を引き寄せることが何よりも重要です。そのことが、全水90年を機にして、単純な原点回帰をするのではなく、伝統と教訓を現在と未来の部落解放運動に真に継承していくとりくみになることを肝に銘じておく必要があります。
とりわけ、排除・忌避・孤立を克服していくとりくみが、部落内外の社会連帯と地域間交流であり、自主解放の基本にもとづく運動が社会的起業や社会的事業の展開であることをしっかりと目的意識化した運動展開が必要です。そのようなとりくみを通じて、部落解放運動の将来を確実に託せる若手の人材育成をはかっていくことが今日の喫緊の課題となっています。

2 2012年度(第69期)の重点課題
(1)今通常国会で「人権侵害救済法」の制定を実現させよう
  @1月24日から150日間の予定で開会されている第180通常国会で、10年の長きにわたってとりくんできた「人権侵害救済法」制定の実現をかちとり、人権の法制度確立への礎を築かなければなりません。
  A政府・与党は、昨年12月15日に「人権委員会の設置に関する検討中の法案の概要」を法務省政務三役名で公表して以降、「人権委員会等設置法案」の策定作業をすすめており、閣法としての国会提出の準備を整えています。
  B「法案」は、国内人権機関としての人権委員会の独立性を担保するために国家行政組織法の第3条にもとづく機関として提案されるとともに、問題の多かったメディア規制条項を外すなど一定の評価ができますが、法務省外局としての所管問題や人権委員会の権限問題など問題点も多く抱えています。今後の国会論議をとおして充実したものにしていく必要があります。
  C今日段階で重要なことは、10年間の闘いの経緯と議論内容をしっかりと考慮したうえで、解散がらみになるであろう緊迫した政治情勢を的確に分析しながら、「何から始めるべきか」ということを熟慮し的確に判断していくことです。
  この基本姿勢に立てば、多くの議論があったとしても、現実的に成立可能な条件を見極めて3条委員会として「政府から独立した人権委員会」の設置を最優先する政策判断が必要であり、同時に近い将来に「望ましい人権委員会」に充実・改革していくことができる確かな条件を担保するということからはじめるべきです。
  Dこの基本姿勢を堅持しながら、第180通常国会での「法」制定実現をかちとるために、集中的な国会闘争態勢を作り上げ、中央実行委員会および地域実行委員会はもとより日本弁護士連合会(日弁連)や広範な人権NGOとの連携を密にしたとりくみを強化します。

(2)狭山第3次再審の実現とえん罪防止の法制度を確立しよう
  @狭山第3次再審の実現と石川さんの無実をかちとるための決定的な鍵は、証拠開示と事実調べであり、この闘いに全力を集中することです。2009年9月に裁判所、検察官、弁護団による3者協議が開始されて以降、再審実現への道が着実にひらきつつあるといえます。
A2009年12月の第2回3者協議では、東京高裁第4刑事部の門野裁判長が東京高検の検察官に証拠開示の勧告をおこない、2010年5月には検察官から石川さんの事件当時の上申書や取り調べの録音テープなど36点の証拠が開示されました。これらの証拠により、石川さんの自白の強要、取り調べでの誘導、強要も明白になってきています。
  さらに、昨年12月の第9回3者協議では、万年筆、鞄、腕時計の3物証に関する捜査報告書や供述調書など14点の証拠が開示されました。今春の第10回3者協議に向けて、警察による証拠ねつ造の過程を明らかにしていく必要があります。
  B問題は、検察側が石川さんの無実を証明するために決定的に重要であると思われる犯行現場特定のための捜査書類や万年筆の置き場所の図面などについて、「不見当」の姿勢をとっていることです。全証拠の開示を求める強力な運動を継続していくことが求められています。  
  C狭山再審の実現に向けては有利な条件も整ってきています。あいついでえん罪事件への無罪判決や再審開始決定、証拠開示の勧告がなされてきていることです。志布志事件、布川事件、足利事件、氷見事件などは無罪判決をかちとっています。また、福井女子中学生殺害事件では再審開始決定が出され、東電OL殺人事件や袴田事件についてもDNA鑑定や証拠開示がされるなど、再審の実現に向けて大きく前進しています。
  Dこれまでのえん罪事件に共通していることは、「自白の強要」と「証拠ねつ造」であることが明白です。したがって、えん罪防止のために証拠開示と取り調べの全面可視化にかかわる法制化が絶対に必要であり、これを実現するための請願署名運動を強力に推進していくことです。

(3)各地域からの人権のまちづくり運動を創出しネットワークを構築しよう
  @2000年に「人権のまちづくり運動推進基本方針」を提起し、全国的な人権のまちづくり運動を各地域から創り出していくとりくみを開始してから、すでに12年目になっています。
  Aこの間、各地で意識的なとりくみが模索され、さまざまな特色をもった人権のまちづくり運動がすすんできました。国や自治体の福祉やIT分野の一般施策を積極的に活用しているところ、他のNPOと連携して協働のとりくみをしているところ、自力で法人を立ち上げてまちづくり事業を展開しているところ、隣保館とその事業を中心にとりくみを広げているところなど、多様な「人権のまちづくり」運動が出てきており、全国的に注目されるような先進事例も出てきました。
  B各地のとりくみの経験をおたがいが学び合う自由な交流が自発的に展開され、自主的な地域間ネットも形成されはじめています。しかし一方では、いまだに何らの着手もできないままの地域も存在しています。とくに少数点在の地域では困難な条件があることは事実ですが、周辺地域や他のNPO団体などとの協働のとりくみを模索しながらとりくみをすすめていくことが大事です。人権のまちづくり運動の進捗について地域間の温度差が顕著になっている状況がありますが、各地での交流活動を活性化させて、どこの地域でもとりくみを根づかせていくことが急務です。
  C人権のまちづくり運動は、差別の具体的なあらわれである排除・忌避・孤立という問題を、日常の生活圏域で連帯・参加・つながりを創り出すことによって克服していくことをめざすものです。その意味で、人権の法制度確立のとりくみとともに今後の部落解放運動の重要な戦略課題です。
  Dしたがって、人権のまちづくり運動を全国の各地域で根づかせていくために、多様な「交流の場」を作り出していく仕掛けや支援を中央段階・ブロック段階・都府県連段階できめ細かく追求していくことが大事です。同時に、地域外とのさまざまなまちづくり運動との交流・連帯も深めていきます。

(4)地域の生活に密着した闘いから部落解放運動の総体的改革をおしすすめよう
  @昨年度に引き続き、運動と組織を改革していく基本方向は、新たな「綱領」・「行動指針」・「規約」にもとづき、地域の生活圏域でこれを具体化する実践を継続的にとりくんでいくことです。
  Aそのさい、あらためて確認しておかなければならないことは、なぜ新たな「綱領」・「行動指針」・「規約」を策定してきたかということです。簡潔にいうならば、新自由主義路線にもとづくグローバル化のもとで深刻な格差拡大が広がるなど新たな社会変化が生じ、部落の実態も大きく変化してきた状態に対応できる新たな運動展開と組織建設に向けたとりくみの基本方向を打ち出すということでした。さらに、2006年の一連の不祥事を克服することができる運動と組織への変革が急務でした。
 とくに、少子高齢化や若者の地区外流出、同和行政の転換や市町村合併などで、部落解放運動は、総体的に「運動の停滞」、「組織の減少」、「財政の困窮」、「人材の不足」という困難な状況に陥っており、これを乗り越えるための具体的なとりくみが求められているのです。
  これらの問題や課題にたいして、この5〜6年間全国的な論議を積み重ねてきました。その議論の今日段階での中間的な集約が、新たな「綱領」・「行動指針」・「規約」であり、今後さらにその内容の具体化への実践をとおして深めていくことが問われているのです。とくに、規約改正論議では、一連の不祥事への再発防止という側面からの議論が急務だったために、中央組織規律委員会の設置に関する規約条項の改正を重点的におこなってきました。しかし、組織建設にかかわる重要な議論は積み残されています。「加盟登録規程のあり方」、「同盟費のあり方」、「機関紙・誌のあり方」、「若手育成のあり方」、さらには「ネットワーク型組織のあり方」などの課題を継続的に検討して、早急に結論をうることが重要です。
  B組織建設のとりくみとともに、運動的体質を改革していくための当面する重点課題の第1は、各地域で生活に密着した運動課題の発掘とそれを具体化するとりくみとして、「仕事づくりへの事業」の創出に全力をあげることです。その「事業」は、社会性や公益性をもった「社会的起業・企業」として追求することが重要です。また、目的意識的に若手が積極的に参画・関与できるようなとりくみ方を工夫し、若手育成・登用の場としていくことです。すなわち地域からみずからの力で「仕事・雇用」を創り出し、他者雇用を求めるだけなく自己雇用の道を切りひらいていくとりくみです。
  C第2は、すでに各地域でとりくまれている先進的事例を全国的に共有できるように「交流の場」を中央本部や各ブロック、都府県連が設定することです。自発的に自由に個別地域がつながりあったり、ブロック段階で頻繁に経験交流できる場づくりを支援する仕組みをつくっていきます。もちろん、これらのとりくみは、組織内だけでなくさまざまな組織外の先進的なとりくみに学ぶことにつなげていくことも重要です。
  D第3は、運動展開にあたっては可能な限り「部落内外をつなぐ協働」のとりくみとして押しすすめていくことです。さまざまな運動分野で、部落の枠をこえた多様な協働のとりくみが複層的に形成されていくことが、「社会連帯」を具体的に作り出し、部落差別を現実的に克服していく力になっていくのであり、部落解放運動の裾野を大きく拡大する活力になっていきます。
  E端的にいえば、「事業」・「交流」・「連帯」を具体化するこれらのとりくみは、長きにわたる悪弊としての行政依存から脱却し、自主解放を担うにふさわしい組織・財政改革への柱となるべきものです。
 部落解放運動がかかえる課題は山積していますが、当面はこの「事業」・「交流」・「連帯」のとりくみを集中的に追求し、地域の生活に密着した闘いを通じて、部落解放運動の総体的な改革をおしすすめていくことをめざします。

 

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