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部落問題資料室
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身元調査事件の現実ふまえ、本人通知制度の導入・発展を

「解放新聞」(2012.10.08-2588)

 昨年11月に発覚したプライム事件では、愛知県警に逮捕された4人にたいし、名古屋地裁がプライム社社長に実刑3年、興信所社長に実刑2年6か月、司法書士に罰金250万円、元弁護士に懲役2年(執行猶予4年)の判決を出し、一区切りがついた。しかし、6月に入って事件は新たな展開をみせた。プライム事件を捜査していた愛知県警は6月1日、事件に関連してハローワーク横浜の職員と神奈川県内の調査会社経営者を逮捕し、6月28日には岡山県のソフトバンク元店長と広島県の興信所経営者を逮捕、7月20日には長野県警の現職警官2人と元県警幹部で興信所社長を逮捕し、9月に入って国土交通省関東運輸局職員を逮捕した。
  いったい、どこまで続くのかと思われるほどに、この事件の底は深い。いずれもプライム事件の捜査中に職歴情報や携帯電話情報、車両情報が大量に売り買いされている実態をつかみ、出どころを特定して逮捕に踏み切ったものだ。
  報道によれば、名前だけわかれば本人の職歴や勤務先がわかり、また携帯電話の番号だけわかれば持ち主の住所や自宅の固定電話番号がすぐわかる。逆に名前と住所さえわかれば、本人の携帯電話番号がすぐにわかる、というものだ。また、車のナンバーさえわかれば持ち主がわかり、名前だけわかれば本人の車がわかるという。これらの情報がどのように使われているかは不明だが、振り込め詐欺や恐喝などの犯罪や身元調査に利用されたと推定される。

 ところで戸籍の不正取得防止のために採用された「本人通知制度」で初の逮捕者が出た。事前登録していた埼玉県桶川市の市民が警察に被害届を出して、不正取得した2人が鹿児島県警に逮捕されたのだ(本紙2586号に掲載)。
  報道によると、鹿児島市の男性が、行政書士にうその説明をして埼玉県桶川市の会社役員Aさんの戸籍と住民票の取得を依頼。依頼を受けた行政書士は、行政書士会が発行する職務上請求書を使って戸籍と住民票を取得し男性に渡したが、Aさんが事前登録をしていたため、桶川市は交付の事実をAさんに通知した。通知を受けたAさんは、すぐ桶川市に情報開示請求をおこない自分の戸籍・住民票を取った行政書士の名前を突き止めたが、身に覚えがないものだったため、弁護士と相談して警察に被害届を出した。その後、鹿児島県警が捜査に乗り出し、不正取得の事実を突き止めて逮捕した。
  この事件で押収した名簿には、別に400人分の名前と調査会社への請求書が記されており、背後に大がかりな身元調査のネットワークがあることを匂わせている。

 つぎつぎに摘発されているプライム関連事件にたいして部落解放同盟はどう対応するのか、解放運動の課題を挙げておきたい。
  まず第1は、事件の全容の解明だ。プライムに関連した事件では、警察はいずれの場合も不正取得した公務員と元締め的な調査会社の経営者を逮捕しただけで、依頼したお客やそれを取りついだ全国の興信所・探偵社、仲介者は誰一人摘発していない。プライム事件が今後どのように発展するかはわからないが、個人情報がいとも簡単に盗まれ、それが高額で売買される個人情報売買社会の実態を、警察はもとより政府は真剣に受け止めてその全容解明を急ぐべきだ。
  2つめは、被害者への告知だ。プライム事件では約1万人が不正に戸籍・住民票を取られているが、ほとんどの被害者はいまだに不正取得されたという事実を知らされていない。不正に取得された個人情報が悪用されストーカーや脅迫、不採用、婚約破棄などに利用されても、その原因がわからないままに被害を受けている。これ以上被害を拡げないために行政は「事実告知」するべきだ。05年の不正取得事件をきっかけに、福岡市や東京都の墨田区など8区では、不正取得された被害者に、不正の事実を知らせる「事実告知」をおこなっている。戸籍・住民票事務をおこなっている自治体は、市民を守るという観点から速やかに被害告知をするべきだ。
  3つめは、本人通知制度の導入だ。大阪ではじまった本人通知制度はしだいに広がり、現在までに制度を導入した市区町村は、全国で201になった。埼玉、京都、香川では全市町村が導入している。すでにのべたように本人通知制度で不正が発覚し逮捕者が出た。本人通知制度は不正取得防止に効果的だ。この採用が急がれる。
  4つめは、司法書士会や行政書士会、ハローワーク、警察など、情報を管理する公的機関の職員のモラル向上と研修だ。長野県警の事件では、車両情報を現職巡査に依頼していたのは元上司の県警幹部であり、彼は定年前に退職して「エイシンリサーチ」なる興信所を立ち上げて商売をしていた。関東運輸局技官は、警察官の逮捕が報道されるまで情報を提供して見返りに金銭を受け取っていた。関係機関の徹底した人権啓発が必要だ。


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