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部落問題資料室
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『週刊朝日』差別記事事件を糾弾し、差別撤廃、人権確立への表現・報道の創造を

「解放新聞」(2013.02.11-2606)

 昨年、発売された『週刊朝日』(10月26日号)で連載記事としてスタートした「ハシシタ―奴の本性」と題した一連の記事内容が、部落差別記事そのものであり、発売した朝日新聞出版側の責任はもとより、記事を書いたノンフィクション作家の佐野眞一さんの責任もふくめ、重大な差別と人権侵害をもたらした差別記事事件として中央本部あげた糾弾闘争を展開している。
  この差別記事事件は、全国的にも注目を集めている橋下徹・大阪市長の出自を暴き、人をおとしめる意図をもって、特定の人物―橋下市長の「本性」を暴くという、〝出自″を根拠に侮辱した差別表現そのものであり、差別記事事件として抗議の意志を表明している。この差別記事の本質について、中央本部は朝日新聞出版との話し合いをもち、つぎの点についての議論を展開した。

 まず第1点は、朝日新聞出版として発売されるギリギリまで掲載可能記事であるのかどうかが問われていたにもかかわらず「差別記事がなぜ、出版されたのか」が争点となった。ジャーナリズムの基本姿勢が、人権を擁護し常に権力をチェックする立場であるにもかかわらず、「部数を上げる」「増収を図る」という出版業者としての利益追求の姿勢が、部落差別を利用し販売増をねらう結果を招いた出版社側の責任が問われた。
  第2の点は、「被差別部落の地区を特定する表現が、差別を助長する記述でした」との朝日新聞出版の見解が論点となった。
  被差別部落の地名を公表するさいには、その目的の正当性と同時に、それが新たな差別を生まないよう十分な配慮がなされているかどうかがポイントである。地区名を公表したことそのものが、差別を助長する記述と断定することは過剰な反応である。むしろ問題は、見解でも指摘されている「出自を根拠にその人格を否定するという誤った考えを基調としている」内容そのものの差別性が問われなければならない。
  つまり、被差別部落の地名を特定表記し、文中の差別的表現と結びつけることによって被差別部落への偏見と差別をあおる内容そのものが、差別や人権侵害を基調としていると指摘されているのである。部落の地名や個人名を明らかにするさいには、社会的差別が存在していることを認識したうえで、配慮して記述することは、ジャーナリズムの基本といえる。その基本さえ失われ、「被差別部落の地区を特定する表現が、差別を助長する記述でした」と弁明する『週刊朝日』側の人権の捉え方のきわめて浅い現状と希薄な人権感覚が暴露されたことを意味している。
  第3点は、父親が大阪八尾の被差別部落出身であるという記述や「橋下家の家系図」などの内容について、身元調査がおこなわれたのではないかという危惧が指摘され、当時の取材内容や取材意図、さらには経緯が明らかにされるべきではないかという点である。「橋下家の家系図」を無断で作成、掲載することはプライバシーの侵害行為そのものであり、公人といえども許しがたい行為であり、家系図の信憑性はもとより、身元をどういった経緯で明らかにしたのか。また、三代にわたる続柄の名前などをどのような方法を用いて調べたのか。個人情報の侵害という法的な過ちをも想起する調査方法などについて明らかにするべきであるとの立場で協議を進行した。
  3点ともに不十分なままの確認となり、あらためて朝日新聞出版としての差別性と問題点、さらには背景をふくめた見解を早期に中央本部に提出することと、作家の佐野眞一さんも話し合いを受けた反省を文章で提出することとなった。

 こうした事件と軌を一にするように、大阪では桜宮高校での〝体罰″問題が発覚し、注目を浴びている。
  大阪市立桜宮高校の男子生徒が体罰を受け自殺するという痛ましい問題で、1月21日、橋下大阪市長は体育科の入試を中止する説明を在校生におこない、23日、大阪市教育委員会は体育科の入試中止を決定したという一連の問題である。
  説明した1月21日の夜、生徒がツイッターで「おい、おまえ ええ加減にせぇよ、おまえじゃはしもと、~(中略)~部落民がいきんな 本間、殺意芽生えるわ」と投稿。このツイートにたいして、投稿した生徒の本名、進学先など詳細な個人情報がネット上にさらされ、誹謗中傷が巻きおこっている。
  「部落民がいきんな 本間、殺意芽生えるわ」などのツイートについては、橋下大阪市長だけではなく部落出身者全体にたいする明らかな部落差別・人権侵害であることはいうまでもない。
  しかし、投稿した生徒が橋下市長を「部落民」だとすり込まれた記憶の背景には、この間の週刊誌などの報道が強く影響していることは間違いのない事実のようである。2011年の『新潮45』を皮切りに『週刊新潮』、『週刊文春』での橋下府知事(当時)の出自にかかわる差別を煽る記事、そして『週刊朝日』と続く一連の差別記事によって、差別意識がばらまかれたことが今回の事件に強く影響を与えたものと想像される。

 このように高校生にまですり込まれてしまった部落差別意識の責任はどこにあるのか。
  だれかが橋下市長の出自を暴き、報道したからこそ高校生があのような書き込みをしたのは明白な事実である。記事を書いた佐野眞一さんがほかの雑誌で語っている「事実関係で間違ったことは書いていない」とのコメントや「見解とお詫び」で記述されている「記述や表現に慎重さを欠いた点」が『週刊朝日』差別記事事件を発生させた背景ではない。
  今回の記事の最大の本質的な問題は、「事実かどうか」や「記述の表現」、「慎重さを欠いた点」などではない。問題は、橋下市長の危険な動向と被差別部落を結びつけた点にあり、部落出身ということと人格とを結びつけ、すべての被差別部落民に共通するかのような記事を掲載した行為が問題なのである。つまり、〝事実″かどうかを争うのではなく、表現そのものの〝差別性″が問われたのである。そして、橋下市長の父親をはじめとした親族が被差別部落の出身であるという出自を暴いたことによって、それが高校生をして橋下市長への差別記述として表現されたことの重大性について、出自を暴いたマスコミ関係者は、どう責任を果たすつもりなのか。猛省が求められることはいうまでもない。


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