マルチチュード㊤㊦
〈帝国〉時代の戦争と民主主義

アントニオ・ネグリ　マイケル・ハート　著　　日本放送協会　刊（定価1260円）

　ドゥドゥ・ディエン国連特別報告者はサミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』を人種差別の知的構築と批判している。私は本署をそれと対極した多元主義の知的構築と位置づけたい。マルチチュードは多種多様の社会性をもつ人びとがネットワークを構築して、「帝国的」なものと対峠する力と位置づける。人民という概念は多様性を統一性へと凝縮し、大衆（マス）は差異を覆い隠すものであるという。鮮やかに差異を内包したまま、この世界を「民主主義」へと組みかえようとする人びと、その動きはすでに始まっていると。先に「帝国的」という言葉を使ったが、世界は帝国＝アメリカ一極主義に支配されているのではない。国家にはどうしようもできない多国籍企業のようなある勢力がグローバル経済の暴利をむさぼり、世界中の人びとを踏みつける。脚注から世界で起こっている抵抗運動の背景など、世界情勢を補強できる一冊。
　人種差別が知的構築されているなら、それに抗する対抗知性を探したい。　　　　（汝）