変えてゆく勇気

上川　あや　著　　岩波新書（定価740円）

　古い新聞投書の切り抜きが私の部屋に貼ってある。「偏見はないと思っていた」という見出しだ。友人からゲイであると告白をうけて、自分自身のなかの差別に気づいて慄然とした痛苦な思いが書かれている。私自身が性的なマイノリティについて多くを知ることのなかったとき、人間として生きていくことの意味に気づきを与えてくれた。
　本書の著者は上川あやさん。性的マイノリティを公言し、日本で初めて公選された人だ。ふるえる手で握ったマイク。市民の支持。さきの統一地方選挙では再選をはたした。現在、世田谷区の区議として忙しく活動をしているが、本書はそこにいたるまでの痛苦な半生とあゆみ、議会活動のようすが綴られている。
　かつて部落解放運動は、「性的マイノリティ」の叫びに「軽々しく差別というな」とわざわざ抗議した歴史をもっている。マイノリティの声は小さい。だが普遍性をもちえた主張はやがて人の心を動かし、社会や法律を変えていくことを可能とする。それは１人ひとりの勇気にかかっているが、誰もが暮らしやすい寛容な社会をどう創っていくべきかをともに考えたいと提起する。　　　（安）