怒らない人

辛　淑玉　著　　角川書店（定価686円）

　格差が広がる日本社会で特権に守られた強者にたいし、どうすれば弱者が千に一つの勝機をつかめるのか、「弱者のためのケンカ道」を、マイノリティである著者の経験やアメリカ滞在の経験から考察する。
　 本著に出てくる、部落差別に反対し声をあげているアフロアメリカンの友人、「不法移民」規制強化法案に反対しデモをするハイスクールの学生など、国境をこえ闘う人びとの姿から、不正を糾す人びとの国際的なネットワークやマイノリティ同士の連帯の大切さを実感させられる。
　 「怒らない人」とは、いわゆる「中流で、既得権をもち、多数派として政府や国家、大企業から守られてきた人びと」。この人たち（日本を動かす立場にいるエリートも）は、「誰かが守ってくれる」との考えから受け身を続け、最後に「ノー」と大爆発し、自滅してしまう。一方、マイノリティは、怒りを効果的に発揮し、味方を増やし、状況を改善する。知恵と経験が蓄積されているマイノリティの怒りや行動から、「本当のケンカの仕方」を学んでください、というもの。
　 この本自体が、弱者である著者のケンカの仕方、「千に一つの勝機」なのだ。（謙）