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部落問題資料室
コラム
今週の1冊 第2373号/08.06.09

木田元の最終講義

木田 元 著  角川ソフィア文庫(定価629円)

書籍画像  海軍兵学校で敗戦を迎え、1年後には中国から引き揚げてきた家族を迎え山形県に住みつく。市役所や小学校の臨時職と問屋を兼業。問屋で一儲けし県立農林専門学校に入る。その木田がドストエフスキー、キルケゴールを読みすすめながら、みずからの絶望にうまく対処できるかという問題意識から、ハイデガーの『存在と時間』にのめり込んでいく過程が語られる。そして20代から70代へとハイデガーの読み方がどのように変わってきたのか、ということも講義される。
  そこでのべられるのが、 『存在と時間』は未完の書であり、西洋哲学の根本的見直しが意図されているということだ。存在を生成=(ある)ということではなく(なる)ということから見、自然も生きて生成するものと見る自然観を復権し、西洋文化形成の方向を転換しようと企てるつもりだった、というのが手練れの哲学者、木田の結論だ。
  ハイデガーがなぜナチに親近感をもち投企したのか、という疑問も解いている。また『現象学の根本問題』というハイデガーのガリ刷りの講義録の海賊版制作の話もおもしろい。反哲学の哲学という意味がよくわかる一冊だ。 (A)

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