姜尚中の青春読書ノート
姜さん、どんな本を読んできたんですか？

姜　尚中　著　　朝日選書（定価700円）

　熱いハートでクールに語る。ブラウン管のむこうの著者が醸し出す空気は、つねに涼やかだ。論客とよばれ、政治学者として活躍する筆者。日本名を名乗り、泥んこになって白球を追いかけていた少年だったと知り、少しおどろいた。
　 熊本の野球少年が東京に出て、論客とよばれるにいたるまでの青春時代、さまざまな本との出会いがあったという。そのうちの５冊をとおして、どんな青春時代をおくってきたのか、世界や自分とどう向きあってきたかを語ったのが本書。
　 人間に最後に残る欲望は意味を求めることだ、という精神科医の言葉に、著者は「意味を得るには読書が有効」だという。だが本で得られるそれは「答」ではないともいう。すぐに「答」や「イズム」を求めることは、大きな過ちを招くものだ、と。
　 本書で著者は、ものごとと距離を保ち、自分を見失わない生き方を諭す。不安定で敗者復活がむずかしい現代社会で、若者に向けられたまなざしは、どこかあたたかい。
　 本との出会いは人とのそれに似ている、とは、あとがきの言葉。どんな本を読み、どういう出会いを選び取ってきたのか。書棚をながめ、自分を振り返りたくなる一冊だ。（亀）