在日一世の記憶
小熊 英二 姜 尚中 編 集英社新書(定価1600円)
「百萬人の身世打鈴(シンセタリョン=みずからの生から絞り出された語り唄)・東方出版」のような本が在日一世が亡くなっていくいま、急がれるのではないか。関西のライターが集まったのは、2005年冬だった。植民地時代、戦後を生き抜いた一世の経験は日本の姿を照射すると、プロジェクトの意義深さを知りつつ、日常に忙殺されていた私がたずさわることができたのはひとりの物語。
済川島4.3蜂起を生き抜いた詩人、金時鐘さんの家を訪ね、植民地時代、分断への悲憤、生涯かけて探してきた民族自決への思いを聞いた帰路、生駒駅で一歩も動けなくなっていた私がいた。ああ、歴史とは、かくも人に降り積もる。
夜明けを待って逐語で時鐘さんの言葉をパソコンに記録していく作業がつづいた。朝鮮語がたたずまう日本語の響き。それは時鐘さんと語り合う刻でもあった。そして、10年以上前に脳梗塞で倒れ、完全失語の後遺症をもち、もはやこのようには語りを聞くことはできないアポジ(父)への思慕を抱きしめた。
52人の証言の背中には無数の在日の生がある。それを一冊に編みあげた尽力に敬意を表したい。 (汝)
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