越境者的ニッポン

森巣　博　著　　講談社現代新書（定価720円）

　ユーモアにあふれた痛快な本だ。
　 たとえば第２章は、安倍内閣を「参議院選の惨敗で死に体となり、最後は敵前逃亡の形で崩壊」と的確にふりかえってはじまる。あの人（安倍晋三）は「もっと胸を張ればいい」と語り出し、以降、皮肉の連続だ。
　 自民党は1955年の結党いらい、ずっと参院第一党の座を独占してきた。安倍首相は、その座から自民党を引きずりおろし「ねじれ国会」を出現させた。これこそ「戦後レジームからの脱却」であり、公約を「無事に果たした」。だから「もっと自信を持ってほしい。この場合の「自信」は…」と、読者を引き込む。
　 語り口は軽い。しかし、問題の本質を見事にかみ合わせた著者独自の皮肉から、的を射た主張が伝わる。
　 安倍元首相に「持ってほしい」とした「自信」も、英語の「SELF－CONFIDENCE」ではなく、「SELF－ESTEEM」だという。その「自信」が低いと「シンゾ
ーさんに顔がそっくりで鼻下に助平ヒゲを生やした歴史上の有名人みたいになってしまう」と安倍とヒトラーの類似を示し、いっそう論をすすめて差別・排外の思想にあふれた教育改革の実相も浮き彫りにしている。ぜひ一読を。　　（K・S）