多読術

松岡　正剛　著　　ちくまプリマー新書（定価　800円）　

　博覧強記（はくらんきょうき―広く書物を読み、よく覚えていること）の人かずあれど、ここまでの人気者も少ない。だれあろう、この書の筆者、松岡正剛のことだ。もっとも、インタビュー形式のこの本は、語りおろしというべきだろうが。
　 この書に、速読術などの読書テクニックを求めるのは誤っている。松岡の書の大海での泳法や来歴が語られている、と思った方がいい。松岡のポリシーは、「もしも人間と動物を決定的に分けているのが「言葉」と「意味」だとすれば、やはりすべての人間的なるものの源泉は、その大半が本の中にあるといっていい」というものだ。だからこそ、「記憶され、記録されたもの」＝「書」とつき合うなかで、ジャンルが深まった、ということがのべられている。そして必要なのは、「本は二度以上読むこと」。それは、本の中身を自分が語り、思い出すためだ。そして、「読書を愉快にさせるのは、読み手次第」であり、「無知」から「未知」へが読書の醍醐味と語る。
　 本とは、筆者と読者、それをつなぐ編集者との意味の交換、作用、市場との「編集工学」のわかりやすい語り口もいい。この緊張関係のなかで、読書という行為がコミュニケーションの場を形成するのだ。（A）