貧困のない世界を創る

ムハマド・ユヌス　著　猪熊弘子　訳　　早川書房（定価2000円）

　ムハマド・ユヌスの著書に魅せられたのは、昨年10月。06年度ノーベル平和貫を受貫したユヌスはバングラデシュで「貧困」と闘うグラミン銀行（村の銀行）の頭取だ。
　 「バングラディシュの恐ろしい飢餓の現状に背を向けたまま、大学の教室でエレガントな経済学の理論を教えることは難しい」と考えた彼は大学を説得し、みずから連帯保証人になって貧しい人にお金を貸すよう説得する。これがグラミン銀行の前身だ。「貧困とはあらゆる人権の不在である」と彼は語る。
　 1983年に銀行を創設し、現在７万3000の村で700万人（女性が97％）の貧しい人びとの銀行として利益をあげている。返済率は99％。同時に、さまざまな事業を立ちあげている。情報の格差は知識、技能、機会の格差をうむと着眼し、貧しい人びとに真に必要な情報機器の技術をあつらえる。ヨーグルトをつくる「ダノン（仏）」を説得し、バングラディシュの各村で現地調達の材料でヨーグルトをつくり、必要な栄養を地元の女性が仕事として子どもに届ける。社会的事業を30年以上つづけている本著の最後の章はノーベル賞受賞時のスピーチでおわる。企業の社会的責任を自明にした一冊。　　　　　　　　　（汝）