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部落問題資料室
コラム
荊冠旗 第2440号/09.10.19
 「私は「心」を持ってしまいました、持ってはいけない「心」を持ってしまいました」。こうして物語がはじまる。それが映画『空気人形』。中身は空気しかない人形。これはファンタジーかSFか。どちらでもない。美しく、残酷な寓話だ
▼「世界は多分/他者の総和/しかし/たがいに欠如を満たすなどとは/知りもせず/知らされもせず/ばらまかれている者同士/無関心でいられる間柄/ときにうとましく思うことさえも許されている間柄/そのように/世界がゆるやかに構成されているのはなぜ?/花が咲いている/すぐ近くまで/虻の姿をした他者が/光をまとって飛んできている」
▼映画のなかで朗読された詩、吉野弘「生命は」の一節。中身が空っぽで、1人ひとりが分断され、砂をかむような孤独のなかに置かれ、人と人との関係を作り得ないのが現代。「心」をもった空気人形は人や自然とつながり、関係を持ち、世界を認識し、1回限りの生をまっとうしようとする
▼彼女が死んだ澄み切った朝。拒食症だった女性が朝の空気の光のなかを起ち上がり、窓を開け、ゴミ捨て場にある彼女の死体も視界に入れながら、「美しい」と語るラストシーンは新たな物語=再生をあらわす
▼人と人、自然との関係を変えようというのが部落解放運動。だからこそ、部落解放=人間解放という思想が形成されてきた。だが、いま、あまりにも空気人形化されていないか、と自問した。

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