米中逆転―なぜ世界は多極化するのか？

田中　宇　著　　角川oneテーマ21（定価727円＋税）

　著者はフリーの国際情勢解説者。米・中に代表される「先進諸国」と「新興諸国・発展途上国」の政治・経済両面での力関係の逆転－世界の「覇権」の米英中心体制から多極体制への転換という説を展開し、日本の政権交代－地方分権、沖縄ビジョンなどの政策も、新しい国際情勢への対応と解釈。今後また政権が交代しても、日本が対米従属を脱して中国主導のアジアを重視する傾向は変わりそうもない、と予測している。
　 本書執筆は鳩山政権末期の５月。普天間の焦点化のなか、「本来は「良い機会だからじっくり在日米軍のことを議論しよう」という論調がマスコミに広がっても不思議ではないが、そんなことにならないのは、マスコミがプロパガンダマシンと化しているからだ」とした記述にはうなづける。しかし、当時の鳩山総理の「のらりくらり」を外務省など抵抗勢力への対抗策、沖縄の反基地運動の全国化待ち、と分析するなど、鵜呑みにできない主張も多い。
　 残念ながら、底に根が届かない浮き草のような危うさを感じる一冊だ。漂う波間から調べるだけでは、マイノリティが人柱にされている構造が見えず、悪らつな世論誘導を破る策も出ない。泥底の根の立場から動くことが重要だろう。（K.S）