サイゴン　ハートブレーク・ホテル　日本人記者たちのベトナム戦争

平敷　安常　著　　講談社（定価2600円）

　この本の著者である平敷安常が、TVカメラマンとしてベトナム戦争の取材をしていたころ、私は中学生で復帰前の沖縄の同世代の少女と文通していた。当時、米軍施政権下にあった沖縄からは、黒い巨体のB52が北爆へと間断なく飛び立っていった。その少女はB52の不気味な姿を写したグラビア写真を同封してきたことがあった。初めてといっていい戦争の臭いをそこから感じた。
　 当時、平敷はサイゴン（現ホーチミン）とよばれた南ベトナムの首都で活動していた。本書は、大阪の毎日放送のTVカメラマンとして取材を始めた年（のち、アメリカABC放送サイゴン支局）から10年の問に出会った報道カメラマンやジャーナリストとの出会いを綴ったもの。当時のテレビニュースや新聞からでは本書に描かれた人たちの存在などまったく想像もできなかった。そこでは多くの日本人記者やカメラマンが亡くなっている。そんな人たちの姿が再構成されていく。
　 ジャーナリズムとは何か。取材での主体と客体について考えることは、そのままこの社会での生き方を学び考えることでもあった。この作品の前編ともいえる「キャパになれなかったカメラマン」（上・下／講談社）も読んでおきたい。　（安）