「キャンパスを吉本隆明の本抱え君と歩いた青春の日々」。これはA紙の歌壇欄に掲載された入選作だ。ほかには「若き日に吉本隆明勤めたるインキ工場の青き廃液」もある。インキ工場では吉本が組合委員長を務めていた
▼さらに「読みもせず捨てもしないで四十年手もとに置きし『共同幻想論』」「千駄木の蕎麦屋に偲ぶ買物かご提げて歩きし吉本隆明」もある
▼選者は、吉本の受容の幅を示していると書く。戦後思想界の巨人と評せられた吉本は、たしかに多くの人びと、若者に受容された。これらの青春の甘酸っぱさも込めた歌は、その反映だろう
▼吉本は情況論としても多くの課題をテーマにしたが、ついに部落差別については、多くの日本の知識人がそうであったように、理解にいたらなかった。文学や親鸞(宗教)を論じながらである
▼人は生きるうえでの原点、活動するうえでの原点をもっている。自身の生や活動が情況に流されないために、ぶれないためにもそれは必要なのだ
▼吉本ではそれが〈大衆の原像〉であった。だが、その把握を誤ったらどうなるのか。1980年代、高度資本主義のなかで、飢餓や貧困が解決されそうに一瞬見え、人びとは現実を謳歌しているように見えた
▼そこでの見誤りが以降の吉本の思考を呪縛した。つねに現実を肯定する歩みがはじまった。市民社会の裂け目の悲劇や世界の根底は通じている、と主張したのが吉本であるにもかかわらず。
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