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部落問題資料室
コラム
荊冠旗 第2586号/12.09.24
 節目の年というものがある。たとえば今年は『古事記』編纂1300年。これに関する本や研究があふれた。今年は柳田国男没50年。まだそんな時間しかたっていないのかというのが正直な感想
▼柳田といえば最初に注目されたのが1910年出版の『遠野物語』。遠野に伝わる話を柳田の解釈で文字にしたものだ。この書の序には「願わくばこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」と書かれている
▼『遠野物語』で描かれるのは山人で、マジョリティである平地人に山へ追われたマイノリティだ。異界に追いやられた少数者の姿や生き方にふるえおののけ、という宣言である
▼柳田の一国民俗学の出発点は、異界のマイノリティであった。だがその視点は失われ、土地を動かぬ農民層に焦点が変えられていく。常民概念の生成だ。それは思考のあざやかな転回であり、転向であった
▼柳田の視点の転回がおこったのは、被差別民の解明が天皇制の秘密に連動することが分かったからだ、とするのが赤坂憲雄の見解。正鵠を得ている
▼時代の潮流、基調というものがある。これまでは「平和と民主主義」だった。だがいまは「戦争と排外」へ舵がとられようとしている
▼かつて柳田は学生運動に挫折した人びとが民衆を知るためにと読んだ。だがいま、「日本人から自信や誇りが失われている」とされる時代のなかで、どう読まれるのか、読まれうるのか。だが、たんなるロマン主義は反動なのだ。

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