弥栄のきずな

林　由紀子　著　　毎日新聞社（定価1300円）

　豊かな同和教育の実践を、丹念に取材してまとめあげたこの本は、同和教育の神髄をとらえた秀逸な作品だ。舞台となった京都市立弥栄中学校が閉校となり、ここでとりくまれてきたことは、永遠に断ち切られてしまい、関係者の記憶にのみとどまるところだったものを、この１冊で広く世に知らしめることになった。
　 生徒が変わる。教師が変わる。そして、当事者にはなれない第３者として取材にかかわった著者もまた変わった。そんないとなみが、おこなわれていた学校だった。
　 あるベテラン教師。制服を着てこなくても、髪を染めていても、門前払いはしない。学校に来たら「教室に入れたい」「鉛筆を持たせたい」「板 書を写させたい」。「その子の課題や何が必要かは一人一人違う。だから接し方も違う」。もしここに来ていなかったら、「生徒に「ルール」を強いる教師になっていた」と思う。
　 出会った人間の数だけ感動が満ちあふれている。そして誰もが主人公である。スポットライトを浴びるように描かれた登場人物のラストを飾るのは著者自らだ。「私も一人の人間として、これからも弥栄中が残した実践と生徒たちに託されたたくさんの思いを伝えていきたい」　（土）