NHKスペシャルは強烈だった。写真家のロバート・キャパを時代の寵児にしたのは1936年に発表された「崩れゆく兵士」という1枚の写真だ。ファシストにより撃たれ、倒れる瞬間の写真を兵士より前線から、死を恐れずに撮った。写真家のお手本だった
▼だがテレビで、最新の技術を使って明らかにされたのは、写真は演習中に足をすべらせて崩れる兵士で、しかも撮ったのは別人だったということだ
▼別人とはキャパの3歳年上の恋人ゲルダだった。キャパとは、彼女と一緒に写真を売るために作りあげた架空の写真家の名前。この写真が米誌ライフで発表され、キャパは絶賛された。ゲルダはその直前にスペイン戦争で撮影中死去していた
▼キャパはこの作品について沈黙を守った。そうせざるを得なかった。重い十字架を背負い続けながら生きた
▼最前線で死と隣り合わせで写真を撮り続けることがゲルダの思いに応え、絶賛されたみずからへの贖罪だった
▼1932年、ロシアの革命家トロツキーをコペンハーゲンでとった作品が、じつはキャパの出世作だった。キャパはユダヤ人であり、共産主義者で反ファシズムの闘志だった。トロツキーもまた烙印を押されたユダヤ人だった
▼2人に共通するのは烙印を投げ返し、生を燃焼させたことだ。見事な生き方だった。この社会で烙印を押されている私たちも、生を燃焼し、社会を変えていくことが求められているのだ。
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