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5月13日の衆議院法務委員会で、民主党の北村哲男・衆議院議員が証拠開示の問題について質問した。これまで、東京高検の担当検察官は、証拠リストの開示について、プライバシーに配慮すべきだという法務省刑事局長の国会での答弁があるとして拒否していた。北村議員が、この点を問題だとして質したのにたいして、原田・法務省刑事局長は、「委員会での法務当局の答弁はあくまで一般論。開示の判断は検察官が個別に検討して判断すべきもの」と答えた。狭山事件の証拠リスト開示についても個別に弁護団と検察官が協議して判断すべきであり、東京高検の門前払い的な拒否は許されないことが確認されたといえる。今後の弁護団の証拠開示に向けたとりくみを支え、東京高検にたいする闘いを強化し、証拠開示を実現しよう。2
北村議員はまた、国際的にも狭山事件の証拠開示の問題に関心が高まっていることを指摘、マーシャル事件を契機に、えん罪の教訓をいかして証拠開示制度を確立したカナダの例や、国連の規約人権委員会の勧告などをふまえて、証拠開示制度の検討も求めた。
マーシャル事件の担当弁護人であったアーロンソン弁護士の講演を聞いても、証拠開示の保障という面でも、日本が国際社会のなかで、大きく遅れていることは明らかである。その典型的な例が狭山事件で、35年経過したいまも証拠開示が十分されていないという現状なのである。
今年は「世界人権宣言」50周年である。「世界人権宣言」を条約化した「国際人権規約」を日本は1979年に批准しているが、そのB規約14条は、「防御の準備のための十分な時間および便益を与えられ」なければならないと定め、このなかには、弁護人が必要な書類を利用できることを含むというのが規約人権委員会の見解である。だからこそ、各国の「国際人権規約」の実施状況を審査する国際人権〈自由権〉規約委員会は、1993年に、日本にたいして「弁護人がすべての警察記録にアクセスできていない」「防御の準備のための便宜に関するすべての保障が遵守されなければならない」と勧告した。この勧告の意味について、安藤仁介・同志社大学教授も、「証拠開示制度が望ましい」と指摘している。証拠開示の保障は国際的には当然のことなのである。
さらに、この規約にもとづいて、日本政府が昨年六月に国連に提出した第四回定期報告で「日本では証拠開示を受ける機会は十分保障されている」と報告している。さきの国会での質疑や、この政府報告から考えても、狭山事件で、このまま、東京高検の担当検察官が証拠開示、証拠リストの開示について弁護団との具体的な協議を拒否しつづけていることは許されないのである。
弁護団や国会でのとりくみと連携をとりながら、証拠開示・事実調べを実現し、再審闘争勝利に向けて全力で闘おう。
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先日の不当逮捕35カ年糾弾・中央集会で、東京高裁に提出された公正裁判――事実調べを求める総署名数は120万人を超え、地方自治体の首長署名も560人を突破した。
「狭山事件を考える住民の会」も、この3、4月に狭山現地や鹿児島市で結成され、29地区におよんでいる。高木裁判長も就任から5年目、第2次再審請求は12年になろうとしており、まさに正念場中の正念場である。弁護団は、ひきつづき補充書等を提出し、東京高裁に事実調べと再審開始を強く求めている。
中央狭山闘争本部では、この最大の山場の地域における闘いの強化をはかるため、狭山ビデオ『無実の叫び――えん罪・狭山事件35年』を作成した。事件の概要・闘いの歴史、無実の証拠、現状と課題までを30分にまとめたビデオ教材である。石川さん本人の訴えなどとあわせて、各地の学習会で活用し、「住民の会」結成に結びつけてもらいたい。
草の根の闘いをすすめ、狭山署名をさらに拡大し、東京高裁を大きな国民世論で包囲し、なんとしても事実調べと証拠開示を実現し、再審開始をかちとろう。