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1998年6月に大規模な差別身元調査事件が発覚して2年が経過した。この間、精力的な糾弾闘争を通じて、事件の差別性や背景を明らかにし、それらの背景を克服するための課題を明確にしてきた。すでに課題を政策化し、具体的実践を展開し、多くの課題を具体化してきた。
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しかし、課題のなかでもっとも重要で基本的な課題である「ILO111号条約(就職差別撤廃条約)」の早期批准を迫る本格的なとりくみは始まったばかりだ。「ILO111号条約」はILO(国際労働機構)条約の中でも基本条約の一つであり、その採択のときには日本の政府代表は賛成票を投じている。この条約は「人種、皮膚の色,性、宗教、政治的意見、国民的出身又は社会的出身に基づいて行われるすべての差別」を禁止している。
現在の日本の労働法制は職業紹介にかかわって差別があってはならないことを職業安定法によって定め、採用されてからの差別禁止を「労働基準法」で定めているが、もっとも重要な採用時の差別禁止規定は法律によって定められていない。その採用時の差別禁止規定を明記しているのが「ILO111号条約」である。「女子差別撤廃条約」の批准によって「男女雇用機会均等法」が制定され、昨年には、より一層条約の趣旨を徹底した「改正均等法」が施行されたように、「ILO111号条約」の批准によって国内の就職差別撤廃に関わる法制度は大きく前進する。「労働基準法」の若干の修正によって、採用されてからだけの差別禁止ではなく、採用時にも適用することが可能になる。
98年の差別身元調査事件の本質は就職差別事件であり、就職差別をする手段として差別採用調査がなされたのである。事件の背景の根本である就職差別を規制する法制度をつくることが、差別身元調査事件のとりくみの大きな目標である。
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この間のとりくみによって、早期批准の環境は整いつつある。
「ILO181号条約(民間の職業紹介所に関する条約)」にかかわって、「職業安定法」が昨年6月に改正され、新たに求職者等の個人情報の取扱いの規定が設けられた。この規定の「第五条の四」では、「その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、その業務の目的に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りではない」と定め、昨年12月から施行されている。
さらに、この規定にもとづいて指針が制定され、「職業紹介事業者等」が原則として収集してはならない個人情報として「人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地、その他社会的差別の原因となるおそれのある事項」「思想及び信条」「労働組合への加入状況」と定めている。また、個人情報を収集するさいには本人から直接収集することが原則であり、本人以外から収集するさいには本人の同意のもとで適法かつ公正な手段によらなければならないことを定めている。このようにすでに事実上の採用時の差別撤廃制度に近い法制度が労働者の個人情報保護の名のもとになされている。しかもこの規定はたんに職業紹介事業者だけではなく、その後の「等」の文字に表現されているように、労働者を雇用しようとしているすべての事業者に適用される。
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これらの成果も差別身元調査事件にたいする私たちのとりくみが功を奏したものであることはいうまでもないが、これらの成果をより明確なものとするために、事件にたいするとりくみをつぎのステップにすすめ、大阪で結成された「ILO111号条約の早期批准を求める大阪府民会議」のような組織を全国各地で結成する必要がある。「大阪府民会議」は官民合同の組織であり、経済界から労働界、宗教界や福祉・医療の分野まで網羅した組織である。それらの幅広い実践を全国各地で展開していこう。
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