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石川一雄さんが不当逮捕されて三十七年を迎えた五月二十二日の『朝日新聞』に、「狭山事件の再審を求める文化人の会」による意見広告が掲載された。内容は、「日本語の練習問題」と題して、狭山事件の脅迫状と石川さんの書いた「脅迫状写し」を見比べて、筆跡が同じといえるのか考えてみようというものである。
文化人の会には、掲載当日から、電子メールや手紙などで、「同一の筆跡とは考えられない」「狭山事件のことをもっと知りたい」「再審を応援する」といった感想や多数の意見が届けられ、大きな反響をよんでいる。狭山事件をあまり知らなかった人もふくめて、全国でじつに多くの人がこの意見広告を見たはずであり、狭山事件にたいする関心が高まっているいまこそ、私たちが狭山再審を訴える教宣活動を強化することが重要である。
意見広告を材料にして狭山事件の話をしていくとともに、筆跡の違いだけでなく万年筆の疑問や自白の不自然さなど、無実の証拠がたくさんあることや証拠開示の問題などを積極的に宣伝しよう。狭山の真相を広げるために意見広告をぜひ活用してほしい。
五月二十三日にひらいた中央集会には、北海道で二番目の住民の会である札幌圏住民の会や沖縄県住民の会・準備会の代表も参加し、アピールをおこなった。
石川さんが各地を訴えてまわることで住民の会結成も広がり全国で八〇地区になろうとしている。意見広告によって、狭山事件やえん罪、人権の問題について多くの市民の関心が高まっているいま、さらに狭山再審闘争の輪を広げていくために、住民の会をもっと各地で作っていくことが必要である。
あいつぐ警察不祥事、誤認逮捕事件、裁判官の差別発言などは、いまなお、えん罪があとをたっていないし、市民一人ひとりと無縁ではないことを示している。一方で、司法改革の必要性がマスコミなどでもとりあげられるようになっている。しかし、証拠開示の保障など国際的な人権基準、国連勧告もふまえた司法の民主的改革の動きになっているとはいいがたい。
私たち一人ひとりが、えん罪や司法と人権の現状を考え、声を大きくしなければならないのである。そのような司法改革と人権の視点をもちながら、住民の会の結成をすすめ、市民的な狭山支援の輪を広げよう。
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石川さんは、昨年の不当な棄却決定に、けっして屈することなく「えん罪を晴らすまで何十年かかろうとも闘いぬく」と決意をのべた。この一年間も各地を訴え、それによって住民の会も広がってきている。石川早智子さんは、棄却決定にたいして、もっと多くの人に支援を訴えようと自分のホームページをひらき、反響をよんでいる。
意見広告への感想を見ても、「狭山」を知らない人、「狭山」に関心をもって情報を求めている人が各地にまだたくさんいることがわかる。また、司法反動の流れのなかで再審をめぐる状況がきびしいことも忘れてはならない。
全力で無実を叫んでいる石川一雄さん、早智子さんの決意と思いを受けとめ、私たち自身が、インターネットの活用もふくめて、もっとやれることを考え、狭山再審を訴えることが必要なのである。全力で異議審闘争をおしすすめ、事実調べと証拠開示を実現しよう。
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昨年の東京高裁第四刑事部・高木裁判長による抜き打ち的な棄却決定から一年を迎える。
棄却決定の最大の不当性は、鑑定人じん問やカモイの検証など、弁護団が要求した事実調べをまったくおこなわずに再審請求を棄却したことである。筆跡の違い、国語能力の違いを明らかにした大野鑑定や神戸鑑定、あるいは指紋の不存在の疑問や脅迫状の封筒の筆記用具が自白と食い違うことを明らかにした元鑑識課員による齋藤鑑定など、多数の専門家による鑑定書について、鑑定人のじん問もおこなうことなく、「筆跡の相異は書くときの環境によるもの」「ある程度の国語能力があったから脅迫状を書けた」「指紋は必ず検出されるとは限らない」などとの決めつけで否定し、再審を棄却している。
高木棄却決定は審理手続きとして極めて不当なだけでなく、内容としてもデタラメである。石川さん宅から押収された万年筆のインクが被害者が使っていたものと違うという重大な矛盾についても、「違うインクが補充された可能性も考えられなくはない」という一言でごまかしているのだ。この一言だけでも、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則も「無実の人を誤判から救済する」という再審の理念もふみにじるものであることは明らかである。
さらに、弁護団が再三にわたって東京高裁にたいして証拠開示の保障を求め、東京高検が多数の未開示証拠が手元にあることを認めているにもかかわらず、証拠開示を保障しないまま再審を棄却したことも、あまりにも不公平、不公正であるといわねばならない。弁護側に証拠開示の保障を求めている国連・自由権規約委員会の勧告も無視されたままである。
弁護団は、ひきつづき東京高検の松本弘道・担当検事との折衝をおこない、証拠開示を強く求めている。東京高検の証拠隠しの不当性を徹底して訴えよう。弁護団は、3月末に提出した異議申し立て補充書と新証拠を提出した。補充書は、棄却決定の誤りを明らかにするとともに、捜査の問題点と部落差別の実態を指摘し、自白の信用性の再検討を迫っている。新証拠は、筆跡の違い、指紋の不存在、脅迫状作成・犯行手順についての確定判決の事実誤認を明らかにし、証拠の主軸とされた脅迫状と石川さんとの結びつきが完全に断たれたことを立証した。
私たちは、これら新証拠、補充書の学習をすすめ、東京高裁の再審棄却決定の誤りと不当性を徹底して暴露し、この異議審の闘いで再審開始をかちとらなければならない。
異議申し立てから一年を迎え、夏休みに入る前は気をゆるめることのできない時期である。昨年の抜き打ち的棄却決定を忘れることなく、七、八月の闘いを全力でおしすすめよう。
中央本部は、棄却決定から一ヵ年糾弾の中央集会を七月七日午後二時から、東京・日比谷公会堂でひらく。集会では、狭山事件の再審を求める文化人の会のよびかけ人の一人でもある作家の灰谷健次郎さんの講演とともに、弁護団報告や石川さんの訴えをおこなう。
この集会を皮切りに8・3~9狭山、反戦、反核・平和週間にかけて、各地で棄却決定批判集会や街頭宣伝、要請ハガキ運動にとりくもう。