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部落問題資料室
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国連人権小委員会の決議いかし「人種差別撤廃条約」の具体化を
(2000.9.18-第1986号)

 「国連人権の促進および擁護に関する小委員会(国連人権小委員会)で「職業および世系にもとづく差別に関する決議」が、8月11日、採択された。
 決議では具体的な内容として、①職業および世系にもとづく差別が、国際人権法によって禁止されている差別である②各国政府は、職業および世系にもとづく差別を禁止・救済するための法的・行政的措置をとること(差別撤廃のための積極的是正措置を含む)③各国政府は、職業および世系にもとづく差別の慣行に従事したすべてのものに法的処罰・制裁をおこなうこと、を指摘している。
 また、グネセケレ小委員(スリランカ出身)にたいして、①職業および世系にもとづく差別が存在している社会を特定すること②この差別を撤廃するための既存の法的・行政的措置を検討すること③この差別を撤廃するためのより効果的な勧告や提案を含んだワーキング・ペーパー(検討報告書)を作成すること、を求めた。
 さらに、来年の第53会期でも、同一の議題のもとで、この問題を継続して審議することを決定した。
 なお、この決議を提案したイギリスのハンプソン委員は、説明のなかで、「職業および世系にもとづく差別」の具体例として、日本の部落差別、インドのダリット(被差別カースト出身者)にたいする差別、アフリカに見られる類似の差別をあげた。

 この決議のもつ意義はきわめて大きい。日本の部落差別やインドのダリットにたいする身分差別が、国連の人権小委員会という公式の場での「決議」のなかで、はじめて正式にとりあげられたからである。これまでにも、「反差別国際運動」(IMADR)のミリアム・シュライバー元理事長や、わが部落解放同盟の代表が国連人権小委員会などで、部落差別の現状を訴えたことはあったが、今回のように決議として正式に取りあげられたことはなかった。
 さらに、今回の決議は、来年1月もしくは3月に開催される人種差別撤廃委員会による日本政府の第1・2回報告書の審理に大きな影響を与える点でも意義がある。なぜなら、日本政府報告書には、まったく部落差別が触れられていないが、国連の人権小委員会は、「職業と世系にもとづく差別」のなかに、明確に部落差別が含まれるとの見解を示したからである。
 この点は、1995年12月、日本が「人種差別撤廃条約」に加入するさい、大きな議論となった点である。わが同盟や「人種差別撤廃条約」の著名な研究者、さらには、当時の与党・人権と差別問題に関するプロジェクトチームのメンバーは、一致して、部落差別はこの条約の対象となるとの立場をとっていた。しかし外務省は、部落差別がこの条約の対象となることに疑義を示し、その結果、部落差別がこの条約の対象になるかどうかについては触れずに加入することとなった。
 ただ、この条約を締結することを承認した衆・参両院の外務委員会は、この条約の締結にともない、部落差別を含むあらゆる差別の撤廃に向けた政府のいっそうのとりくみ促進を求める附帯決議を採択することで、部落差別がこの条約の対象になるとの国会の意志を示したという経緯がある。
 こうして、「人種差別撤廃条約」の対象に部落差別が含まれるかどうかは、人種差別撤廃委員会での議論にゆだねられることとなってきているが、今回の国連人権小委員会の決議は、この議論に大きな影響を与えることは間違いない。

  「人種差別撤廃条約」は、1965年12月、国連で採択された差別撤廃に関するもっとも包括的な条約で、本年6月現在百156か国もの締約国をみている。この条約の対象となる差別は広範で、人種(race)、皮膚の色(colour)、世系(descent)、民族(national)、種族(ethnic)にもとづく差別である。部落差別は、このうち、世系、すなわち家柄や出身にもとづく差別に含まれる。
 「人種差別撤廃条約」では、この差別を撤廃することが社会の平穏と世界の平和につながることを明らかにするとともに、①悪質な差別は法律で禁止すること②差別の被害者を効果的に救済すること③劣悪な実態を改善するために特別措置を講じること(ただし目的が達成されれば特別措置は廃止)④差別意識を払拭するために教育・啓発を積極的に推進すること⑤お互いの違いを認め連帯していくこと、を差別撤廃の基本方策として明確に規定している。
 1985年5月にとりまとめられた「部落解放基本法案」は、「内閣同和対策審議会答申」の基本精神とともに、この条約の考え方をもふまえたものであった。近く開催される第150臨時国会で「人権教育・啓発の推進に関する法律」の制定をめざしているが、この法律は、「人種差別撤廃条約」や「部落解放基本法案」に盛り込まれた教育、啓発部分の具体化となる重要な課題である。
 また、来年夏をめどに「人権擁護推進審議会」がとりまとめを予定している人権侵害の被害者の救済に関する議論でも、この条約の規制・救済に関する条項を無視することはできない。

今回の国連人権委員会での決議の採択にあたっては、反差別国際運動ならびにインドのダリット人権全国キャンペーンによる活発な国際活動があった。とくに、反差別国際運動ジュネーブ事務所の活動が大きな役割を果たした。わが同盟として、今回の決議の採択にご尽力いただいた関係者に深甚の謝意をあらわしたい。
 反差別国際活動が、全世界に存在するさまざまな差別撤廃に貢献するとともに、部落差別やダリットにたいする差別を撤廃していくうえで、直接的な効果を持っていることを、今回の決議は私たちに教えている。
 1988年1月、全国水平社以来の国際連帯の伝統を受け継ぎ、故上杉佐一郎委員長を先頭に、世界各地で差別撤廃にとりくむ人びととともに反差別国際運動を創立したことの意義をあらためて確認するとともに、この運動の先進的な役割をわが同盟が担ってきたことを誇りにしたいと思う。
 来年8月31日~9月7日まで、「反人種主義・差別撤廃世界会議」が南アフリカで開催される。反差別国際運動は、この機会に、①グローバル化がすすむなかで人種差別撤廃のための新たな課題を明らかにすること②日本の部落差別やインドのダリットにたいする差別に代表される身分差別を撤廃すること③マイノリティの女性に代表される二重の差別を撤廃すること、を訴える準備をしている。
 わが同盟としても、この世界会議の成功に向けてパネルの作製など、具体的なとりくみを開始しており、積極的に参加していく予定である。
 最後に、各都府県、地協、支部で、今回の国連人権委員会の決議の意義を学習し関係方面に広め、反差別国際運動の強化に向けてとりくむことを訴える。

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