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部落問題資料室
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最大の山場迎えた狭山異議審
闘争に全力をあげとりくもう
(2001.08.13-第2031号)

 狭山弁謹団は、五月三十一日に指紋鑑定士の斎藤保・鑑定人による指紋検出実験鑑定書を退出、六月四日には異議申立補充書を東京高裁に提出した。
 弁護団が五月一日に狭山現地でおこなった指紋検出実験で、自日のような脅迫状作成をおこなった場合、脅迫状・封筒に多数の指紋が付着検出されることが確認された。とくに、脅迫状・封筒といった紙類は指紋が付着・検出されやすく、再審棄却決定がいうような「鮮明な指紋が必ず検出されるとは限らない」などという一般論は許されない。自白の内容、紙という検出物件の特性など具体的な条件のもとで、脅迫状から事件当日触れた被害者の兄と警察官の指紋は検出されたが石川さんの指紋は検出されなかったという事実を正当に評価すべきである。
 免田事件の再審開始決定や再審無罪判決、鹿児島夫婦殺害事件の最高裁判決のように、自白通りならあるべき指紋が存在しないことを、目白に裏付けがなく、信用できないことを示すものとして、正当に評価した判例もある。脅迫状・封筒に石川さんの指紋がないことは石川さんがこれらに触れていないこと以外に考えられないということは、市民の常識的な判断であろう。
 東京高裁第5刑事部の高橋省吾・裁判長が、石川さんの指紋がないことを正当に評価し、市民常識の通じる判断をおこなうよう強く求めたい。そして、石川さんの指紋がないことと、手袋の痕跡が存在すること、万年筆で書かれ消された文字が多数存在すること、筆跡に相違があること、当時の石川さんに脅迫状が書けたとすることに合理的疑いがあることなどの脅迫状をめぐる疑問を総合的に見るべきである。自白は完全に崩壊しており、棄却決定取り消し――再審開始は不可避である。

 高橋裁判長は、五月十一日の面会で、補充書提出期限を六月四日と区切ってきた。高橋裁判長のこのいい方からして、異議申し立てにたいする判断にはいったと考えなければならない。狭山弁護団は、七月十七日にも、高橋裁判長と面会し、斎藤保指紋鑑定士などの鑑定人尋問・再審開始を強く迫ったが、高橋裁判長は検討中とのべるにとどまっており、予断を許さない状況である。意義審は緊迫した段階、最大の山場にある。
 弁護団は、この意義審で八通もの新鑑定を提出している。元鑑識課員の斎藤鑑売人が明らかにした「中田江さく」という被害者の父親の名前が犯行日前に万年筆で書かれていることや、犯行以前に書かれ消された文字が脅迫状・封筒に存在すること、石川さんの指紋がなく逆に手袋痕があることなどの事実は、脅迫状そのものが「物」として石川さんと結びつかないことをはっきりと示す重大な新事実である。
 また、警察の足跡鑑定や筆跡鑑定のズサンさが暴露され、足跡写真や脅迫状・封筒の筆記用具についての捜査結果など証拠開示の必要性も浮かびあがっている。これらのことを高橋裁判長は公正・公平にそして常識的な目で見なければならない。

 弁護団はいま、刑事訴訟法二七九条にもとづく照会請求を東京高裁にたいしておこなっている。これは、東京高検の検察官手持ち証拠の内容報告を求めるもので、「証拠リスト」の取り寄せ・開示請求である。弁護団は、先日の面会でこの「証拠リスト」の照会請求についても高橋裁判長に強く迫ったが、これについても検討中と答えるにとどまっている。
 再審請求をしている弁護団が、検察官が裁判に出さなかったどんな証拠を手元に持っているのかの報告を求める、「証拠リスト」を取り寄せることを求めることは誰か考えても当然の権利である。
 七月二日には、「狭山事件の再審を求める文化人の会」を中心に、学者・文化人による狭山事件の証拠開示を求める意見広告が『毎日新聞』に掲載された。国際人権B規約委員会の勧告に見られるように情報開示は国際的にも時代の流れ、常識であり、とくに無実を訴え再審を請求している弁護団が検察官手持ちの未開示証拠へアクセスする権利を保障することは誰もが支持することであろう。
 東京高裁・高橋裁判長に、弁護団の照会請求にただちに応じるよう強く求めよう。

 石川さんの三十八年におよぶ無実の叫びをうけとめ、私たちが今やるべきことは、弁護団提出の新鑑定を中心に、石川さんの無実、再審棄却決定の誤りを多くの市民に広げ.東京高裁第5刑事部の高橋省吾裁判長に再審開始を迫る大きな市民の声を作り出すことである。中央本部では、新鑑定をわかりやすく解説した新作ビデオ『無実の叫び2』やカラーリーフレットを作成した。これらの教宣物や意見広告などを徹底して活用し、さらに学習・教宣活動を強化しよう。東京高裁、東京高検に再審開始、証拠開示を求める要請ハガキをどんどん送ろう。
 司法制度改革審議会の最終意見書は、証拠開示の拡充とルール化、国民の司法参加などを提言したが、私たちが求めていたえん罪の教訓を生かすことや弁護側の権利としての証拠開示は明記されていない。
 愛媛県警につづいておきた埼玉県警による十八歳の少年の誤認逮捕・誤判事件に見られるように、えん罪があとを断っていない現実や、なぜ誤判が起きるのかの究明がふまえられていないことは、きわめで残念である。
 「迅速な裁判」「参審制度」というだけでなく、そのためにも公正・公平な手続きの保障や、裁判官、検察官はいうにおよぱず国民全体の人権教育の充実化などが同時に確立されなければならない。今後、国会の議論もふくめて立法化がすすめられるなかで、さらに私たち市民の声をつきつけていく必要がある。狭山闘争と結びつけて司法改革のとりくみをすすめることが、今後いっそう重要である。
 警察官ばかりか検察官、裁判官の不祥事があいついでいる。国民の司法への信頼回復を求めるためにも、司法の公正さ、公平さこそ保障し実現すべきであり、狭山事件の再審請求で、市民が納得する裁判、数かずの疑問、新鑑定についての事実調べ、検察官が隠しもつ全証拠の開示こそが必要だといわねばならない。

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