奨学金制度の充実を求める緊急集会を8月21日午後1時、東京・衆議院第1議員会館内でひらいた。解放奨学金制度の成果を普遍化させ、すべての子どもたちが経済的理由で学ぶ権利を侵害されないように奨学金制度を充実するよう、午後2時には要請団が文部科学省へ、集会後には各参加者が都府県別に地元選出国会議員へ、要請行動をおこなった。
台風11号が近づくなか、集会には、各地の教対部長や高校生、全同教や日教組の関係者ら70人が参加。中央本部からは、組坂委員長、岸田副委員長、高橋書記長、西島書記次長、岡田中執、吉岡中執、吉田中執らが参加し、全同教からは小西・委員長、猶原・事務局長を先頭に参加した。衆・参両院の国会議員16人(代理含む)もかけつけた。
要請団に文部科学省の徳久課長は、「みんなが奨学金を受けられ、のびのび学べるように努力する。奨学金はまったくなくなるわけではない」と概算要求にむけて鋭意努力しており、頑張っていきたいとのべた。
すべての子どものために
組坂委員長は、部落解放を担う人材育成の必要性と、部落の子どもたちの学力保障・進路保障の根幹となってきた解放奨学金の意義を強調し、「地対財時法」失効後の奨学金制度をめぐる情勢を報告。「経済的理由で高校、大学への進学を断念せざるをえない苦しみを二度と味あわせてはならぬ」とのべ、「今日の行動が成功すれば、部落の子どもだけでなく、部落外の苦しんでいる子どもにも役立つ奨学金制度になる。誇りをもって、あの教科書無償化のように心ある多くのみなさんと一緒にがんばり、大きな成果をあげよう」とよびかけた。
高校生を代表して、和田さん(福岡、高校2年生)と藤田さん(京都、高校3年生がそれぞれアピール。和田さんは、苦しい生活のなか、解放奨学金があったからこそ進学できたみずからの体験や、地元でのアンケート調査の結果から、解放奨学金の必要性を指摘。「部落以外の本当に進学したいと思っている人たちの思いもこめて、だれでも借りられる奨学金制度を」と部落外も含めた新たな奨学金制度の実現を訴えた。
藤田さんも、解放奨学金の廃止を間いて特別推薦での短大への進学を断念せざるをえなかったみずからの体験をとおして解放奨学金の必要性を語り、「部落外の人も受けられる奨学金を創りあげてもらいたい」と訴えた。
岡田教村部長の基調提案・行動提起につづき、日教組からは7月の参院選で当選した神本美恵子・議員が、闘いの決意をのべ、高橋書記長の団結ガンバローで集会を閉じた。
来ひんからは、民主党の中野寛成・衆議院議員、自由民主党の滝実・衆議院議員、公明党の弘友和夫参議院議員、社会民主党の植田至紀・衆議院議員があいさつし、決意をのべた。
1人ずつ思いを訴える
集会がつづくなかで午後1時から岸田副委員長、吉岡教対副部長ほか高校生の代表7人が文部科学省にたいして要請行動をおこない、奨学金制度の存続を訴えた。省からは、初等中等教育局児童生徒課の徳久治彦・課長と佐藤安紀・課長補佐の2人が対応した。
要請団を代表して岸田副委員長は、「かつて識字学級で学ぶおばちゃんたちから自分たちのようにならないように教育権保障の提起があった。その思いを高校生たちが受け継いで今日の要請になった」とのべた。
徳久課長のあいさつのあと高校生の代表が1人ずつ自分の思いを訴えた。京都の藤田さんは、看護婦になる夢をもっている。特別推薦での進学を断念しなければならなかった。夢をもっている部落の子も部落外の子にも均しく受けることができる奨学金制度を実現してほしい、と訴えたほか、大阪の硎光君も家族が多く、生活が苦しい。後輩にも奨学金を受けさせてやりたい、と訴えた。また、福岡の木村さんは、父は自営の鳶をしているが、不景気で仕事がへっている。私は先生になりたいという希望がある。妹はデザイナーをめざしている。けれども私が進学したら妹は進学できない。奨学金制度はぜひ必要。夢をもっている子はたくさんいる。そのために奨学金をなくして欲しくない、と訴えた。
吉岡副部長は、北九州でのアンケート調査の結果をわたし、奨学金の必要度が高いことを訴え、京都府連の安田茂樹・書記次長は、子どもたちに勉学に集中できる状況を保障してほしい。新しい奨学金の制度を創設してほしいと訴えた。
(資料)奨学金制度の充実を求める緊急中央集会・基調
(1)
現行の「地域改善対策奨学奨励費補助事業」、いわゆる解放奨学金制度は、日本の奨学金制度が排除してきた経済的理由による就学困難者、とりわけ部落の子どもたちへの奨学金制度として機能してきました。
部落差別に起因した経済的貧困の結果、高校進学率は1965年ころで、全国平均約60パーセントに対し部落は約30パーセントという低位な状況にありました。こうした実態の改善のために、1966年に解放奨学金が国の制度として確立され、経済的理由で進学を断念するという状況を大きく改善してきました。その結果、現在では高校進学率の格差も5~ 6パーセントにまで縮まるまでに至っています。しかしながら、大学進学率は全国平均の2分の1と依然として較差が指摘されています。
また、部落の生活実態をみると、かつてよりは改善されてきているものの、生活保護世帯・住民非課税・均等割課税世帯が約40パーセントと全国平均の2倍、母子・父子世帯も2.8パーセントと2倍に達しているなど(1993年総務庁調査)、依然として経済的安定が確保されていない状況が存在しており、経済的理由により就学が困難な生徒に対する教育保障としての奨学金制度が引き続き求められます。
(2)
2001年3月末の「地対財特法」の失効に伴い現行の「解放奨学金」制度を廃止するという国の方針が明らかにされて以来、依然として「解放奨学金」制度を必要としている被差別部落の教育実態や生活実態を明らかにしながら、これまで「解放奨学金」制度が果たしてきた意義と成果を損なうことがないよう「解放奨学金」制度に替わる新たな奨学金制度の確立を求めて、文部科学省への要請や各政党、国会議員への申し入れを継続してきました。また、全国同和教育研究協議会をはじめとする関係団体や全日本同和対策協議会や全国知事会など自治体関係機関などを多くの地方自治体からも国に対して奨学金制度の拡充と改善を求める要望書が提出されました。
こうした奨学金制度の充実を求める数多くの要望を受けて、与野党を問わず各政党においても党内での協議や国会質問、政府への申し入れ等の取り組みがなされました。
その結果、国として、すべての子どもたちを対象に経済的理由で進学を断念しないための新たな奨学金制度について検討をおこなうという一定の方向性が示され、現在、文部科学省は都道府県・指定都市からのヒアリングを実施するなど、「法」期限後の奨学金制度の具体的なあり方について概算要求にむけた作業を進めています。
(3)
「法」期限後の奨学金制度のあり方については、現行の「解放奨学金」制度の成果を損なわないことを基本に、すべての子どもたちが経済的理由で進学を断念しないための奨学金制度の確立を求めていきます。また、「学力基準」や「連帯保証人」制度など数多くの課題を抱えた「日本育英会」奨学金制度をはじめとする一般奨学金制度についても、部落問題解決、人権政策確立の視点に立った抜本的改善を求めていきます。
その際、1965年に出された「同対審答申」では、「部落差別が現存する限り、この行政は積極的に推進されなけなければならない」と明確に述べられていたこと、96年5月「地対協意見具申」においても、「特別対策の終了、すなわち一般対策への移行が、同和問題の早期解決を目指す取り組みの放棄を意味するものではない」と指摘されていたことを踏まえるよう求めていきます。
とくに、高校奨学金制度については、今後、地方自治体の事業として実施していく方向性が具体的に示されており、部落の生徒の実態を踏まえるならば、地方自治体が実施する奨学事業を「経済的理由で進学を断念する」ことがなく、地域の実情に即した奨学金制度として充実していくことを求めるとともに、国に対しては「一般施策」への移行に伴う需要増に応じた予算を確保し、地方公共団体の財政状況を踏まえ、これまでの成果を損なうことがないよう配慮することを求めていきます。
(4)
折りしも、「法」期限後の奨学金制度のあり方についての論議が山場を迎えるなか、政府が進める特殊法人改革に伴って、「日本育英会」奨学金制度の縮小・廃止と奨学事業の民営化による教育ローンへの転換など、これまでの奨学金制度改善の取り組みを後退させる内容の改革案が示されています。
部落問題の解決はもちろん、基本的人権の一つでもある「教育権」を保障していくことは国の責務であり、子どもたちの学ぶ権利を保障するための施策の根幹でもある奨学事業を国が放棄することは、憲法や教育基本法の理念に反する行為だと言わざるをえません。また、「国際人権規約(社会権規約)」第13条(教育に対する権利)および「子どもの権利条約」第28条(教育の権利)で示されている「後期中等教育の斬新的無償化」「適当な奨学金制度の設立」「財政的援助の提供」などを求める国際的な潮流にも反しています。このような改悪を許さず断固として阻止するために、粘り強い闘いを展開していきます。
部落解放は教育に始まり教育に終わる、と言われるように教育の保障が仕事の保障につながり、差別の再生産を絶ち切るもっとも重要な課題です。部落の子どもたちの学力保障・進路保障の根幹となってきた解放奨学金制度をさらに発展させ、すべての子どもたちの「教育の機会均等」の実現にむけた奨学金制度の確立にむけて全国の仲間とともに全力を挙げて取り組みを進めていかなければなりません。
かつて、高知・長浜ではじまった教科書無償化の闘いが、後に国レベルでの教科書無償化に広がっていったように、解放奨学金制度の成果を普遍化させ、すべての子どもたちが経済的理由により学ぶ権利を侵害されないために奨学金制度の充実を求めていくことを確認して基調提案とします。