2001年5月25日
部落解放同盟中央本部
(1)
本日、人権擁護推進審議会から「人権救済制度の在り方についての答申」が出された。この「答申」内容は、昨年11月28日に公表された「中間とりまとめ」に対する41,835通に及ぶパブリック・コメントや公聴会等で出された意見を一定反映したものとして評価することができる。これまで真摯な論議をしてこられた審議会委員各位の努力に敬意を表するものである。(2)
まず、部落問題にかかわった積極的救済制度の対象として、結婚差別と部落地名総鑑の頒布等に代表される差別表現行為が位置付けられた点は評価することができる。とくに、結婚差別については、「中間とりまとめ」の中では、「個人の内心にかかわる問題」であるとして消極的な対応にとどまったが、今回の「答申」では、一定積極的な対応を盛り込んでいる。また、部落地名総鑑の頒布等の差別を助長・誘発する恐れの高い一定の表現行為が行われる場合については、人権救済機関自らが裁判所にその排除を求めるなどして、人権侵害の防止を図っていく仕組みが必要であると指摘している。(3)
次いで、救済手法についてみると、従来の相談やあっせん、指導等のみでなく、新たに、仲裁、勧告、公表、訴訟援助等を行うとした点は評価できる。また、調査についても、従来の任意調査にとどまらず、過料や罰金で担保された質問調査権、文書提出命令権、立入調査権の必要性を指摘した点も評価することができる。(4)
公権力による差別なり虐待等は、「中間とりまとめ」では消極的な指摘にとどまっていたが、「答申」では、「私人間における差別や虐待にもまして救済を図る必要」があると指摘した点は評価できる。しかしながら、公権力によるその他の侵害については、他の制度があり、必要に応じた救済を図っていくとの指摘にとどまった点は、他の制度が有効に機能していない実情を見たときに問題が多い。(5)
組織体制について、「答申」は「中間とりまとめ」にあった「一定の独立性」という表現から「一定」を削除し、明確に「政府から独立性を有し、中立公正さが制度的に担保された」委員会組織<「人権委員会」(仮称)>の必要性を提言した点は評価できる。この提言を受けて、「人権委員会」(仮称)は国家行政組織法第3条にもとづく独立委員会として内閣府に位置付けすることが求められる。(6)
「人権委員会」(仮称)の委員の選任については、「中間とりまとめ」で盛り込まれていた指摘に加え、「委員の選任過程に関する政府の説明責任を尽くすべきである」ことを盛り込んだ点は評価できる。しかしながら、ジェンダーバランスへの配慮にはふれているものの、被差別当事者の積極的な選任の必要性に関する指摘がない点は問題である。(7)
人権擁護委員については専門性を有する委員と限定してはいるものの、新たに設置される「人権委員会」(仮称)との関連をもった活動をなしくずし的に認めている点には問題がある。各方面から指摘されているように、現行の人権擁護委員は多分に「名誉職化」「形骸化」しており、そのあり方は抜本的に見直す必要がある。この点に関し、審議会は今回の「答申」を出して以降、あらためて人権擁護委員のあり方については抜本的に見直すこととしていることから、安易な「活用」を排し、その審議を十分踏まえる必要がある。(8)
人権擁護の今後のあり方について、「人権委員会」(仮称)のみでは限界があり、国や地方自治体はもとより民間団体とも積極的な連携をはかっていくことを「答申」が盛り込んだ点は評価できる。この指摘を受けて、わが同盟をはじめ永年にわたって人権侵害や人権問題・差別問題の解決に取り組んできた、豊富な経験と人材を蓄積している民間団体との連携を「人権委員会」(仮称)は、積極的にはかっていくことが求められている。(9)
「答申」では「人権委員会」(仮称)の救済以外の他の機能として、啓発機能と助言機能をあげている。とくに、啓発機能については、昨年12月6日に公布・施行された「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」にもとづき、この法律で定められている啓発機能の一部を担っていく必要があるが、「答申」ではこの点の指摘が全く欠落している。(10)
「人権委員会」(仮称)に求められているもう一つの機能として、国際的な連携をはかっていく点がある。これと関連して、日本は、国連が中心になって採択した26人権諸条約のうち10の条約を締結している。「人権委員会」(仮称)は、これらの諸条約の国内での実施状況をとりまとめた政府報告書の作成について、積極的に助言・提言する必要がある。また、「人権委員会」(仮称)は、これらの条約の実施のための委員会やアジア・太平洋地域で設置されている国内人権機関等とも積極的な連携をはかっていくことも求められている。(11)
「答申」は、去る3月20日、人種差別撤廃委員会が日本政府の第1・2回報告書の審査を踏まえた「最終見解」を採択したことに言及している点は評価できる。しかしながら、それはごく一般的な言及にとどまっており、部落問題がこの条約の対象となること、差別宣伝や差別煽動の禁止も含めた「差別禁止法」を制定する必要性があることなど、「最終見解」の具体的な内容を紹介しておらず、その実施を積極的に提言していない。(12)
今回の「答申」を踏まえ、人権侵害の救済のための法制度の整備が政府・国会において検討されていくこととなる。わが同盟は、今回の「答申」の積極面を活用しながらも、問題点を広範な国民運動によって克服し、「人権の21世紀」の実現にむけた、真に実効ある法制度の確立をめざしていく決意である。「解放新聞」購読の申し込み先
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