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第20波中央集会が、二月十二日、千代田公会堂でひらかれる。この中央集会の課題は、つぎの四点である。
第一点は、人権教育および人権啓発の推進に関する法律(「人権教育・啓発推進法」)にもとづく「基本計画」を、日本社会のなかで真に人権が確立され、部落差別をはじめ、あらゆる差別の撤廃に実効あるものとしていくことである。
この点にかかわって、昨年十二月二十日、法務省と文部科学省の連名で「基本計画の中間取りまとめ」が公表され、本年一月未までパブリックコメントが求められた。わが部落解放同盟中央本部をはじめ、各方面から中間取りまとめにたいする意見が提出された。
そのポイントは、①人権教育・啓発の内容として、日本国憲法、世界人権宣言、日本が締結した国際人権規約をはじめとした国際人権諸条約の理解と実現を明確に位置づけること②人権教育・啓発の目的として人権社会の実現を盛りこむこと③人権教育・啓発の「中立性」を確保するうえで重要なことは、行政=権力の不当を介入を排除することであること、また憲法や教育基本法、世界人権宣言や国際人権規約を基準とすることを盛りこむこと④部落問題の解決が引き続き国の責務であることを明確にするとともに、特別措置法の終結=「同和」行政の終結ではないこと、あらゆる教科をとおして「同和」教育を推進していく必要があることを盛りこむこと⑤保育所や隣保館、民間企業などでの人権教育・啓発の推進を明確に位置づけること⑥地方自治体や民間団体によって実施される人権教育・啓発を国は積極的に支援し連携を図る必要があることを盛りこむこと⑦「人権教育・啓発推進法」の所管を法務省と文部科学省の共管から内閣府へと移管する必要があることなど多岐に渡っている。
パブリックコメントを受けて、政府は三月未までには「基本計画」を確定していくとしているが、これらの意見が反映されるよう、引き続き各省交渉や国会質問などを積みあげていく必要がある。
また、政府にたいして「人権教育・啓発推進法」の第八条の規定にもとづき、人権教育・啓発の推進状況の国会報告を求めていく必要がある。
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第一点は、差別や人権侵害にたいする規制・救済にかかわった法整備を実現していく課題である。
新聞報道などによれば、政府は現在開会されている第百五十四通常国会に「人権擁護法」なるものを提案する予定である。この法案が、①悪質な差別行為と人権侵害行為を明確に禁止したものとなっているかどうか②公権力による差別や人権侵害が明確に規制と救済の対象とされているかどうか③新しく設置される「人権委員会」が法務省ではなく、内閣府との関連をもった独立委員会とされているかどうか④「人権委員会」が中央集権的なものでなく、少なくとも都道府県単位にも設置されることとされているかどうか⑤人権委員の選任や人権委員会事務局職員の採用にあたって、人権問題に精通していること、人権問題の解決に情熱をもっていること、ジェンダーパランスをはじめ被差別の当事者を含む多様性が反映されるものとなっているかどうか⑥人権擁護委員については、一定期間の研修の義務化を前提とした有給化など、抜本的な改組案が盛りこまれでいるかどうかなどが問題である。
これらは、各方面からのパブリックコメントなどでも指摘されていたところであり、各党への要請行動や国会での審議をとおして実現をめざしていく必要がある。
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第二点は、「地対財特法」期限切れ後の「同和」行政の方向を明確にすることである。
周知のように一九六五年の「同対審答申」は「同和問題の早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題である」とし、部落差別が現存する限り「同和」行政は積粒的に推進されなければならないと指摘していた。また、九六年「地対協・意見具申」は、①これまでのとりくみによって部落差別の実態は改善されてきてはいるものの、今日なおこの問題の解決は重要な課題であること②「同和」問題の解決をはじめとする日本社会に存在する人権問題の解決が国際的責務となってきていること③今後とも「同和」問題の解決は国の責務であるとともに国民的課題であるとした「同対審答申」の基本精神をふまえていく必要があること④特別措置を終了し一般施策へと移行していくことは、「同和」行政の終結を意味するものではなく、今後は「同和」問題の解決をめざし、一般施策を活用(工夫を含む)することによって従来にもまして積極的にこの行政を推進していく必要があること⑤「同和」問題の解決は過去の課題ではなく、あらゆる人権問題の解決と結びついた未来にかかわる重要な課題であり、新たな観点からこの間題の解決にとりくむ必要があること、を明確に指摘していた。
二〇〇〇年度に大阪府、鳥取県、香川県、徳島県などで実施された部落差別の実態にかかわった調査結果を見たとき、①住環境面の改善はすすんできているものの、建て替えの時期を迎えている住宅や施設が少なくないこと②生活、教育、就労、産業などの面で、今日なお明確な較差が存在していること③とくに就労や産業などの面で長引く不況の影響が出てきていること④パソコンの所有やインターネットの利用状況を見たとき明確な較差が存在していること①差別意識は改善されてきているものの依然として根深いこと⑥悪質な差別事件があとをたっていないこと、などが明確になってきている。
「同対審答申」や九六年「地対協意見具申」の指摘、さらには今日的な部落差別の実態をふまえ、国は、①部落題の根本的な解決に向けた「国の責務」と今後の戦略を明確に示すこと②早急に部落差別の今日的な実態を全面的に明らかにするための調査を早急に実施すること③「地対財特法」期限切れ後も、部落問題の解決のために総合調整・企画立案機能をもったセクションを内閣府(もしくは当面総務省)に設置すること④部落差別撤廃に向けてどのような一般施策を活用していくのかを具体的に示すこと、などが求められている。
これらの課題を、今後、各省交渉や国会での審議をとおして明らかにしていく必要がある。
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第四点は「地対財特法」期限後の自治体レベルでの「同和」行政の基本方向を確立する課題である。部落差別がすぐれて地域にたいする差別であること、二〇〇〇年四月に「地方分権一括法」が施行され、自治体の役割が大きくなってきていることなどを考慮したとき、部落差別の撤廃に向けた自治体の役割にはきわめて大きなものがある。
自治体の場合、これまでの地域でのとりくみの成果として二〇〇一年一月十七日現在、部落差別撤廃人権宣言は九百五十四採択され、条例は七百二十四制定されている。また、各地で「地対財特法」期限後も、部落差別が撤廃されるまで「同和」行政を積極的に実施していくことの必要性が審議会の答申などで指摘されているし、首長の決意としても表明されている。
しかしながら一部には「地対財特法」の終了=「同和」行政の終結と受けとめている自治体も存在しているし、せっかく部落差別撤廃・人権宣言や条例の存在している自治体でも、計画が制定されていなかったり、市町村合併の動きの中に巻き込まれているところも少なくない。市町村合併は部落差別撒廃人権確立を基礎に、住民の幸せの拡大のためにおこなわれなければならない。
したがって、自治体についても、①部落問題の根本的な解決に向けた自治体の責務と今後の戦略を明確に示すこと②早急に部落差別の今日的な実態を全面的に明らかにするための調査を早急に実施すること③「地対財特法」期限切れ後も、部落問題の解決のために総合調整・企画立案機能をもったセクションを設置すること④部落差別撤廃に向けてどのような一般施策を活用していくのかを具体的に示すこと⑤部落差別撤廃・人権条例を制定し、計画を策定すること、などが求められている。
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一九八五年に「部落解放基本法」制定を求める国民運動を開始し、やがて十七年を迎える。「部落解放基本法案」に盛りこまれた内容の現実的な実現をめざすこれまでのぺてきたとりくみは、部落問題の根本的な解決を達成するとともに、日本を国際社会に誇りうる「人権立国」としていく崇高なものでもある。
八十年前の一九二二年三月三日、京都の地で、「人の世に熱あれ、人間に光りあれ」との合言葉のもとに、全国水平社を創立し部落差別の撤廃と全人類の解放をめざした先人達の遺業を受け継ぎ、発展させていこう。