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部落問題資料室
NEWS & 主張
主張
8・3~9を狭山・反戦・反核
平和週間とし各地で闘いを

 狭山異議申立棄却決定を受けて、民主党、社民党では再審手続きのあり方、とくに証拠開示の必要性、ルール化について議論、検討を始めている。民主党は「刑事訴訟法の改正に関するワーキングチーム」をスタートさせ、司法改革ともあわせて具体的な証拠開示の公正な立法化の検討作業を開始している。
 新証拠発見を理由とし、狭山事件のように事件から相当の年月がたっている再審請求では、とくに検察官手持ち証拠に弁護側がアクセスできる(閲覧、利用できる)よう保障することは不可欠である。
 イギリスでは、証拠不開示による誤判が一九八〇年代に判明し、九〇年代に証拠開示を義務化する制度が確立した。検察官は手持ち証拠のリストを弁護側に提示し、開示請求を受け、検察側は原則として開示義務があり、検察側が不開示を申し立てた場合は、裁判所がそれを判断するという手続きが確立している。日本でも、一九八〇年代にあいついだ再審無罪判決は、証拠開示が誤判救済、真実究明にとっていかに重要、不可欠かを経験的にも示した。
 また、国連の国際人権自由権委員会が、一九九三年に日本政府にたいして弁護側への証拠開示の保障を求め、一九九八年には再度さらに強く「弁護側が検察官手持ち証拠にアクセスできるよう法律および実務において保障すること」を勧告していることも忘れてはならない。
 日本政府は裁判所が開示命令を出すことができることをもって証拠開示が保障されていると主張してきたが、自由権規約委員会の委員が「弁護側は検察官がどんな証拠をもっているかわからないのでは個別証拠の開示命令を求めることはできないではないか」と指摘している。現状では弁護側に証拠へのアクセスを保障したことにはならない。ことし十月に日本政府は第5回報告書を国連に提出し、来年にはその審査がおこなわれる予定である。日本の実態を早急に改善しなければならない。
 現在すすめられている司法改革では、こうしたえん罪を教訓にした諸外国の証拠開示制度に学んだ証拠開示の公正なルール化こそが検討されるべきであろう。司法改革の立法化作業、刑事訴訟法ないし規則の改正をし、弁護側の権利として証拠開示の保障、検察官手持ち証拠のリスト開示義務を定めるなどのルール化を国会で議論し、国民にひらかれた場で具体的に検討すべきである。私たちも、国会内外で訴えていかなければならない。

 最高裁第一小法廷は、一九七六年の白鳥事件決定で、再審開始の要件となる「『無罪を言い渡すべき明らかな証拠』とは、確定判決における事実認定につき合理的疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいうものと解すべき」であり、「明らかな証拠であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされていたような事実認定に到達したであろうかという観点から、当の証拠と他の全証拠と総合的に評価して判断すべきである」としている。そして、その判断にあたっては、「再審開始のためには確定判決における事実認定に合理的疑いを生ぜしめれば足りるという意味において『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判における鉄則が適用される」としている。
 この最高裁判例に示された再審の理念をふまえて、免田事件では、福岡高裁が現場検証や鑑定人尋問などの事実調べをおこない、一九七九年に棄却決定をとり消して再審を開始した。その後の多くの再審請求事件で事実調べがおこなわれ、再審が開始され誤判から無実の人が救済されたのである。
 また、その過程で裁判所が証拠開示命令をおこない、検察官手持ち証拠が開示され誤判救済に役立った。先般、鹿児島地裁で再審開始決定が出された大崎事件でも、七年間の審理で鑑定人尋問、現場検証がおこなわれ、証拠開示もおこなわれている。
 東京高裁の狭山事件第2次再審請求棄却決定、異議申立棄却決定はこの白鳥決定やその後の再審判例で示された再審の理念に明らかに反しているといわねばならない。たとえば、確定判決は脅迫状を証拠の主軸とし、埼玉県警鑑識課などの三つの筆跡鑑定が石川さんと脅迫状の筆跡を同筆としていることをあげる。そして、石川さんは当時あまり字を知らなかったが、自白によれば、家にあった雑誌『りぼん』から知らない漢字を拾い出して脅迫状を作成したと認定している。しかし、筆跡鑑定は寺尾判決自身が「経験と勘に頼るもの」といわざるをえないものであるし、字をあまり知らない人がわざわざ手本を見ながら脅迫状を書くのか、脅迫状や封筒に石川さんの指紋がないのはおかしいなど自白にも疑問がある。寺尾判決の認定を支える証拠は、警察の筆跡鑑定と不自然な自白という、きわめてあいまいな、弱い証拠であった。
 それにたいして弁護団は再審請求で、警察の元文書鑑定主任ら専門家による多数の筆跡鑑定を提出、同筆とする三つの筆跡鑑定の誤りと異筆とする鑑定結果を明らかにした。また、封筒宛名の「少時」が万年筆で書かれていること、中田という被害者の名前が犯行日より前に書かれた疑いがあることなどを指摘した斎藤保・指紋鑑定士の鑑定を提出した。また、知らない漢字を手本にして書けば筆勢が渋滞し脅迫状のようにスラスラ書けないなど自白を疑問視する専門家の指摘も出された。
 これだけの新証拠がもし確定判決のあげる証拠と同時に出されていたら、「石川さんが脅迫状を書いた」という確定判決の事実認定に変わりはなかったであろうか。それでも裁判所は「合理的疑い」を生ぜしめていないというのだろうか。いったい裁判所のいう「合理的疑い」とはなんなのか教えてもらいたいものだ。最高裁はただちに再審を開始すべきである。

 狭山弁護団は、六月二十五日に最高裁調査官と面会し、十月末に特別抗告申立補充書を提出することを伝えた。弁護団は補充書で再審棄却決定、異議申立棄却決定を批判し、両決定のとりけしと再審開始を求める。また、二~三メートルにおよぶ検察官手持ちの証拠の開示、証拠リストの開示も最高裁に求める。最高裁は、再審の理念にもとづいて事実調べ、証拠開示を保障し、再審を開始すべきである。
 五月二十三日の不当逮捕三十九か年の中央集会は四千五百人という予定以上の参加もあり熱気あふれるものであった。住民の会も、各地でもう一度斎藤鑑定の学習をおこなうとともに、市民にむかってさらに狭山を広げるとりくみ、司法全体を視野に入れたとりくみをすすめている。
 八月九日は、最高裁が上告棄却決定をおこなって二十五年を迎える日である。狭山事件の再審の闘いが四半世紀を迎えることを意味する。この四半世紀もの間まったく事実調べはおこなわれておらず、この十三年間証拠開示もおこなわれていない現実を強く市民に訴え、最高裁に事実調べ、証拠開示の保障と再審開始を求めていかなければならない。
 原点にかえった学習・教宣の強化をはかるとともに、これまでの闘い、とりくみを徹底して総括し、あらたな闘いを各地からまきおこそう。八・三~九を狭山・反戦・反核・平和週間として各地域でとりくみをすすめよう。

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