証拠開示のルール化の
実現へ署名運動展開を
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狭山弁護団は七月十日、東京高検の中山純一・検事と面会し、証拠開示の折衝をおこなった。弁護団は、最高裁に特別抗告申立のあと、検察官の手元にある積み上げれば二〜三メートルにもおよぶ未開示証拠資料について、証拠リストを開示するなどして、内容をまず明らかにすることなどを求める要請書を四月に提出し、最高検に折衝を求めていた。担当検察官は最高検の検事であるが、窓口として東京高検の中山検事が弁護団との面会に応じるとして、この日の交渉となった。
弁護側には検察官の手元にどのような証拠資料があるのかわからないのであるから、証拠リストを開示するなどして、手持ち証拠の内容をまず明らかにすべきだ、という弁護団の主張は当然のことだ。これまで、検察側は、個別に証拠を特定して開示請求すれば検討するといってきたのであるから、何があるのか明らかにするべきである。そうでなければ検察側の主張は矛盾する。
しかし今回の折衝でも、中山検事は証拠リストの開示には応じず、弁護側の強い要求にたいして、結局、最高検の担当検事と協議して回答するとだけのべるという、きわめて不誠実な姿勢といわねばならない。今後は最高検の検事みずから交渉に応じるなどして、早急に具体的に折衝をすすめるべきである。
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狭山事件は事件発生から四十年目にはいっている。四十年も無実を叫んでいるのに、この二十八年間まったく証人尋問も現場検証もおこなわれていないのである。再審請求は二十五年をこえ、その間にじつに数多くの新証拠が発見され、弁護側から提出されているにもかかわらずである。このような裁判がいったい世界のどこにあるだろうか。
映画『ハリケーン』にもなり日本でも知られたアメリカの元プロボクサー、ルービン・カーターさんのえん罪事件は二十二年におよぶ裁判で無罪になった。無罪判決はカーターさんの無実を証明する証拠が隠されていたことを厳しく非難し無罪をいい渡している。
同じく『父の祈りを』という映画で知られるギルフォード・フォー事件は、イギリスで一九七四年に四人の青年が無実の罪を着せられたえん罪事件であるが、十四年の裁判で無罪となった。警察がアリバイ証言を隠していたことが判明したのである。
カナダでは、一九七一年に先住カナダ人の青年が殺人犯にされたマーシャル事件がおきた。無期懲役判決を受けたドナルド・マーシャルさんは十二年の裁判で再審で無罪となった。政府は誤判調査委員会をつくり、やはり当局による証拠隠しが誤判原因と判明し、カナダ最高裁は、一九九一年にこの誤判事件をとりあげ、「検察の手中にある捜査の結果は、有罪を確保するための検察の財産ではなく、正義がなされることを保障するために用いられる公共の財産である」という判決を出した。
このように諸外国では、これらの証拠不開示による誤判事件を教訓にして、弁護側に証拠開示を保障する制度、手続きを確立しているということである。イギリスでは、弁護側が利用するしないにかかわらず、検察官手持ち証拠の一覧を弁護側に示すというルールが定められた。
またイギリスでは、一九九六年には再審請求を審査する独立した委員会を設置し、この委員会に検察官などへの証拠開示を命令できる強い権限を認め、弁護側が新証拠を収集できるよう保障している。
ひるがえって、狭山事件の実態はどうか。検察官が手元に多数の未開示証拠をもっていることが明らかでありながら、いっさい開示されないまま再審請求が棄却されているのである。
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諸外国では、一九八○年代に判明した誤判事件を教訓にして九〇年代に証拠開示を保障するルール化が確立した。日本でも、一九八○年代にあいついだ再審無罪判決は、証拠開示が誤判救済、真実究明にとっていかに重要かを経験的に示している。
さらに、国際人権自由権規約委員会は一九九八年十一月、弁護側が検察官手持ちの未提出証拠にアクセスできるよう実務と法律の両方で保障することを勧告している。弁護側が検察官手持ち証拠の存在すら知らなければ証拠開示を受ける機会を保障したことにならないと指摘されている。諸外国のように、検察官が手持ち証拠のリストを作成し、それを弁護側に提示する義務があること、弁護側の証拠開示請求にたいして検察側は原則開示する義務があるというルールを通常の審理でも再審請求でも確立することが日本でも急務である。
民主党の「刑事訴訟法の改正に関するワーキングチーム」は、諸外国の証拠開示制度などの研究もふくめて、司法改革ともあわせた証拠開示の公正なルールづくりの検討作業をすすめている。この秋に始まる臨時国会でも、司法改革は検討課題の一つであり、私たちも、証拠開示の公正・公平なルール化を求めて大きな世論をつくつていくことが必要である。
中央本部では、国会での司法改革の議論もふまえながら、この十月にも、幅広い運動として、証拠開示の公正・公平なルール化を求める運動をおこし、署名運動などを展開することを確認している。これまでの再審事件での証拠開示の意義、証拠開示問題についての国連勧告や諸外国の制度、考えなどを学習し、日本での司法改革と結びつけて証拠開示実現を求めていこう。
現在、弁護団は特別抗告申立補充書の作成作業をすすめており、十月末に最高裁に提出する予定である。
東京高裁の不当な棄却決定を取り消し、事実調べを保障して再審を開始するよう強く求めるとともに、証拠開示を受ける機会を保障するよう最高裁に求める。新証拠発見を開始の要件としている再審請求では証拠開示の保障はとくに必要不可欠なはずである。
さきにあげたカナダ最高裁判決は「『無実の人を処罰してはならない』ということを確実に保障することは弁護側の十分な答弁と防御の権利に依存しており、証拠の不開示はこの権利を侵害するものだ」と断じている。わが国の最高裁も、「無辜の救済」という再審の理念にしたがって事実調べ、証拠開示を保障すべきである。
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