pagetop
   

 

 

 

補充書を武器に狭山
再審へ全力をあげよう

 狭山事件再審弁護団は十月三十一日、特別抗告申立補充書を最高裁に提出、最高裁調査官と面会し、事実調べ、証拠開示の機会を保障するべきであること、棄却決定を取り消し、再審を開始すべきことを強く申し入れた。補充書は、筆跡、足跡、齋藤鑑定など各論点について再審棄却決定、異議申立棄却決定の誤りを明らかにしたうえで、自白に信用性がないこと、自白じたいが石川さんの無実を示しているとする総論を展開している。
 狭山事件のえん罪性はどこにあらわれているのか。まず、有罪の根拠とされた証拠に重大な疑問がある。石川さんが脅迫状を書いたとする警察の筆跡鑑定や万年筆の疑わしさはだれもが感じるものである。筆跡の明らかな違いを、書くときの「心理状態」でごまかしたり、万年筆のインクの違いを「補充の可能性」で無視する裁判所の判断が納得できないこともだれでも同感するだろう。自白の不自然さ、矛盾など、自白の疑わしさもまた数多く存在し、えん罪であることを物語っている。
 補充書は、逮捕直後の別件の取り調べ調書から、石川さんの当時の生活なども詳細に分析し、石川さんには、そもそも自白のように脅迫状を作成し身代金要求の誘拐を計画・実行するという犯行の動機がないことを明らかにしている。基本的なことだが、石川さんの無実を示す重要な点だ。このように、補充書は、補強証拠とされた筆跡、足跡などの信用性のなさからはいって、自白じたいの疑わしさを明らかにし、狭山事件のえん罪性を最高裁にていねいに説明するものとなっている。
 私たちは、もう一度原点にかえって、齋藤鑑定などの新証拠とともに、自白の基本的な問題点を学習し、さらに多くの人に真実を広げなければならない。

 では、えん罪はなぜおきたのか。虚偽自白を生んだ警察の代用監獄を利用した取り調べ、証拠ねつ造によるえん罪が狭山事件であるが、さらに、この事件の特徴として、警察が犯人を取り逃がし、事件が社会・政治問題化したことがその背景にある。また、被差別部落への見込み捜査、別件逮捕など捜査の問琴地域住民のなかにあった差別意識の問題、教育、文字を奪われた石川さんの生い立ちなどの問題も見る必要があるだろう。
 なにが誤判をうみだすのか。裁判官の判決や決定が、市民の常識的な判断とずれている現実、鑑定人尋問や現場検証が三十年近くもまったくおこなわれない再審請求の手続きのありかた、そして、証拠が開示されないまま再審が嚢却されるというようなことが許されている制度の現実が、こうした司法の現状を支えている。何を、どう変えていくのかを明確にする必要がある。
 そのさい、見込み捜査、別件逮捕、代用監獄での取り調べ、誤った鑑定や虚偽自白によるえん罪、誤判は今も身近におきているという現実を、もっと知らせる必要がある。宇和島誤認逮捕事件、埼玉少年誤認逮捕事件、名古屋窃盗えん罪事件など、具体的な事例はいくつもある。
 四十年にわたって無実を叫びつづける石川さんが私たちの目の前にいること、そして、同じようなえん罪・誤判がいまもおきていて、それは、司法制度、社会の構造的な問題であることをふまえた訴え、闘いが必要である。

 先日、神奈川県警戸部警察署で取り調べ中に自殺したとされていた男性が警察官による誤射であったと認定する判決が出た。判決は「事件の証拠を消し去り、不公正な捜査をおこなった」と批判し、県警の組織的証拠隠しの可能性も指摘したと報じられている。名古屋刑務所などでの法務省職員による暴行死傷事件でも証拠隠しがおこなわれていたと指摘されている。証拠隠しがまかりとおっているから公権力による人権侵害はあとをたたないのではないか。証拠隠しこそが人権侵害、不公正・不正義をひきおこすのである。その典型的な例がえん罪である。たとえば、狭山事件でも、取り調べ中の自白の信用性が争われているが、石川さんの取り調べがどうだったかという記録は何もない。イギリスなどのように、取り調べに弁護士が立ち会い、録音・録画していれば、そして、すべての証拠を開示する義務が法律化されていれば、こうした事態はある程度防止できよう。情報公開の時代である。警察の取り調べ、身柄勾留のありかた、証拠開示の抜本的な改革が必要だ。
 現在、政府の司法制度改革推進本部は、二〇〇四年にむけて司法改革の立法作業をすすめているが、そのなかには、裁判員制度導入や証拠開示拡充のルールなど、刑事司法にかかわる重要な論点もふくまれる。
 わが国では、これまで多くのえん罪事件、誤判事件がおきたことを教訓にし、刑事司法の改革が必要である。とくに、えん罪をなくし、石川さんのような誤判からの救済をおこなうためにこそ、証拠開示の改善、改革が必要である。そのような観点から、証拠開示の公正・公平なルール化を求める運動が法律学者、弁護士、文化人らによって始められた。
 十二月六日には、「えん罪・誤判はどうしたらなくせるか-司法改革と証拠開示のルール化を考える」と題したシンポジウムが東京でひらかれ、狭山事件などえん罪事件の訴えや証拠開示確立にむけた報告、提起がおこなわれる予定である。ぜひ、参加し、司法改革に目をむけた学習会、証拠開示ルール化を求める運動を地域からおこしていこう。

 最高裁第一小法廷の判事が、十月から十一月はじめにかけて三人交代した。弁護団の補充書提出を受けて、特別抗告審は今後重要な段階をむかえるといわねばならない。十月にも福岡で住民の会が結成され、全国で百十五団体に広がってきている。あらたに地域で市民に訴え、住民の会を広げ、また共闘など若い世代に訴えていくためにも、狭山事件の全体的な学習が必要である。狭山事件の真相、齋藤鑑定などの無実の証拠、えん罪の原因・背景、市民にとってのえん罪の恐怖と誤判をなくすための司法改革の必要性といったトータルな狭山事件の総学習連動をすすめよう。
 そして、最高裁や最高検にたいする要請ハガキや署名とともに、司法改革に積極的に目をむけ、証拠開示のルール化を求める声を地域からまきおこしていこう。

 


「解放新聞」購読の申し込み先
解放新聞社 大阪市港区波除4丁目1-37 TEL 06-6581-8516/FAX 06-6581-8517
定 価:1部 8頁 115円/特別号(年1回 12頁 180円)
年ぎめ:1部(月3回発行)4320円(含特別号/送料別)
送 料: 年 1554円(1部購読の場合)