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人権教育・啓発を各地の
とりくみで推進しよう

 昨年三月三十一日をもって一九六九年に制定された「同和対策事業特別措置法」以来つづいてきた「特別法」は失効し、新たな同和行政の時代に入っている。
 新たな時代のもっとも重要な課題の一つが人権教育・啓発である。しかし、各地の人権教育・啓発のとりくみは「人権教育・啓発法」や七百以上の地方自治体で「人権条例」が制定されているにもかかわらず、十分に進展していない。地域によっては、とりくみが後退しているところも存在する。
 「人権教育のための国連10年」では人権教育を「人権文化(cuiture of human rights)を世界中に築くとりくみ」と位置づけている。
 しかし、各地で展開されている人権教育・啓発は、差別を生み出している社会システムの変革を目指し、人権文化を築くような視点で展開されていないところが多い。人権意識や感覚は社会システムと密接にかかわっていることを忘れてはならない。
 部落問題でも誤った捉え方がある。「実態的差別については一定の目処がついた。後は心理的差別の問題だけであり、その残された心理的な問題を解決することが啓発の役割で、人びとの意識の中だけの問題である」とする捉え方である。
 このような考え方のもとで人権教育・啓発を展開しても、差別の原因に迫るような社会システムや人権文化を築くことはできない。
 「構造的差別」とでもよぶべき状況と、そこから生み出される心理的差別を解決するという視点が必要なのである。

 以上のような理念のもと地方自治体で人権教育・啓発が確実に推進されていくためには、推進体制と財政的裏付けをもった人権教育・啓発プランが必要である。どのような計画もそれを推進する人や組織、財源がなければ具体的にすすまない。行政機関の計画の場合、とくにそのことがいえる。そのためにも推進体制と財政的裏付けを明確にした法的整備つまり条例等の整備が必要である。
 また、人権教育・啓発を具体的に准進していくためには多様な教材とカリキュラムを創造することが重要である。
 本来、人権に関する知識は知的喜びをもって迎えられてもおかしくないはずである。しかし、現状は多くの場合、受動的な参加者に不十分な知識を与えるといったもので、楽しさや喜び、感動といったものは十分には育っていない。
 こうした点を克服するためには、教育技術とともに、楽しく、能動的・主体的に学べる多様な教材やカリキュラムが必要なのである。あらゆる分野の人がみずからの仕事や生活の現実と結びつけて、主体的に学べる数多くの教材とカリキュラムがあれば、同和教育の分野でこれまで蓄積してきた多くの成果を大きく発展させることができる。
 「啓発とは、一人ひとりの自己実現を図る」ことであるなら、こうした観点は欠かすことができない。

 どのような計画であろうと具体的な課題と政策を提起して、具体的にとりくんでいかないと、計画は成功しない。単なるイベントやかけ声だけで計画は進展しない。具体的に、いつ、誰が、何処で、どの様なことを、どの様な方法でやるのかということを明確にする必要がある。
 さらに、今日の情報技術を活用するとともに地域で人権教育のネットワークを形成する必要がある。同和教育にかかわる分野には、すでに核になるセンターやネットワークが形成されている。これらのネットワークにその他の人権教育のネットワークを加えれば、よりいっそう広がりをもつ。この広がりをもったネットワークを活用し、創造していく必要がある。そのために残された時間はわずかである。早急に人権教育・啓発の推進体制を構築しなければならない。


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