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新たな状況を活かしきる自立
・自闘の組織・財源の確立へ

 昨年の三月末日で三十三年間の「特別措置法」時代が終結し、一般施策を活用した新たな「同和」行政展開の段階を迎え、一年が経過しようとしている。この一年を振り返ったとき、「同和」行政のあり方は、「模索・躊躇・混乱」のなかで軸足が定まりきっておらず、われわれの側も十全な対応がなしきれておらず、「焦燥・動揺・諦観」が出てきているというのが全国的な現状である。
 予測されたこれらの事態に対応するために、われわれは、「法」期限前後のこの三年間、部落解放運動の新たな基本方向について精力的に議論を積み重ねてきた。それらは、二〇〇〇年の第57回全国大会で「第三期の部落解放運動の五つの基本内容」として提示されるとともに「八つの転換の方向」(後に十項目に追加)を具体的にし、第58回全国大会では「行政闘争強化基本方針」「糾弾闘争強化基本方針」「男女共同参画基本方針」「組織強化基本方針」の四基本文書としてまとめられ、第59回全国大会では「七つの基本課題」を提示し、現在「新同和行政推進施策基本方針秦)」「日本の人権法制度確立基本方針(案)」「人権のまちづくり運動推進基本方針(案)」の三中間報告書を検討しており、五月の全国大会で決定する運びとなっている。

 しかし問題は、これらの部落解放運動の新たな基本方向が各級機関や支部員一人ひとりにどこまで切実な問題意識として共有されているかということである。
 十数年前にいまはなき上杉委員長は、「現行のような事業法の再延長は要求しない」と断言し、「旧態依然とした部落観や闘争スタイルから自らを解放する」ことを訴え、「ムラ自慢・支部自慢の運動」を創り出すことと同時に「世界の水平運動」を実践することを提案した。それは、当時の部落解放運動が、「同和」行政施策の受け皿的運動や組織になっているのではないかとの危機感から、「事業のあれこれを求めているのではなく部落差別からの解放を求めている」ことを明確に方向付けようとしたものであった。それゆえに、「同和対策事業総点検運動」の全国展開を打ち出し、部落差別撤廃に実効性があるかどうかの点検基準を設定して徹底した事業改革への問題意識を喚起してきたことを思い起こす必要がある。
 だが、率直にいって、「利敵行為になるのではないか」とか「既得権を自ら手放すことは運動の後退だ」とか「キレイごとにすぎない」とかの意見もあり、この総点検運動は当時十分な効果をあげたとはいえない。その意味では、「特措法という特別の時代」を「当たり前の時代」として甘受するということが長い時間のなかで体質化してきており、組織の倫理と社会の倫理が乖離していたのではないかという深い自省が必要である。
 しかし、今日の「法」失効や行政の情報公開・説明責任という事態は、すでに以前のような政治的デリカシーをもてあそぶ段階ではない。社会的責任と信用にもとづく新たな部落解放運動の基本方向を実践化していくための運動と組織を「待ったなし」でつくり出すことが求められている。
 高知県の「モードアバンセ不正融資」問題や京都市の「補助金不正使用住民訴訟」問題あるいは長野県の「同和行政に対する田中知事の反動攻勢」問題などは、そのことの緊急性を物語っている。けっして対岸の火事として看過するわけにはいかないのである。

 二月十九日にひらいた「全国委員長・書記長・財務委員長会議」では、これらの状況をふまえながら、部落解放運動の現在と未来に責任をもつものとして、部落差別撤廃に向けての自立・自闘の組織と財源を確立するために真剣な論議が交わされ、つぎのような方向と課題が確認された。
 第一に、組織建設・財源確立に関する「基本姿勢」「基本方向」の全同盟員への徹底をはかるために、都府県連・支部での総学習運動を展開すること。
 第二に、「人権のまちづくり運動」「地域福祉運動」「地域教育運動」などの分野別・課題別の新たな運動づくりへの着手をただちにすすめること。
 第三に、新たな隣保館運営設置要綱をふまえた「隣保館活用のあり方」の確立に向け、隣保舘交渉を実施すること。
 第四に、各種指導員・相談員のあり方についての現状点検の実施と改革方針を厳守すること。
 第五に、部落解放運動におけるNPO活動のあり方について、運動論・組織論的検討と整理をおこない、実践的活用講座などをひらいていくこと。
 これらの方向性は、けっして実現不可能なものではない。すでに、部分的にはこれらの方向性にもとづいて運動や組織作りを実践しているところもあり、それらのところでは従前にも増して組織が拡大され安定した財源が確立されているという実例が存在しているのである。
 まさに、「旧態依然とした部落観や闘争スタイルから解放」された新たな発想と、提起されている部落解放運動の総合的展開をめざす「基本方向」での大胆な実践が、いまほど求められているときはないのである。

 


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