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読者に見解文掲載
底本の全集にも問いかけ
ちくま文庫『私の遍歴時代』問題で
「解放新聞」(2003.06.09-2123)

 

 ちくま文庫『私の遍歴時代』(三島由紀夫著・筑摩書房発行)のなかに「特殊部落」という表現が使われていた問題で、この間、中央本部では筑摩書房側と話しあいをつづけてきた。5月28日には、辻本文化対策部長が青木真次・ちくま文庫編集長と話し合いをもった。青木編集長は、①『私の遍歴時代』の文庫の最後のページに「読者の皆さんへ」と題したこの表現についての編集部の見解を入れる②この間の話し合いの過程を編集部が執筆し、部落解放同盟としての見解を入れた文章を同社の宣伝誌『ちくま』に掲載する③全社的なとりくみをさらに強め、とりわけ、ちくま文庫編集部でも、一人ひとりの編集部員が差別と表現の問題を自分で考える力をつけることができる学習の場を設定する、などの方向性を示した。
 辻本文対部長は、「読者の皆さんへ」の内容と今後の方向を基本的に了とし、今後、この文庫の底本となっている『三島由紀夫全集』(新潮社発行)についても、問いかけをおこなうことを確認した。
 「読者の皆さんへ」と題した文章は、次期重版から掲載される。

 次期重版から掲載される、ちくま文庫『私の遍歴時代』(三島由紀夫著・筑摩書房発行)の「読者のみなさんへ」と題した文章を以下のとおり掲載する(全文)。

読者の皆さんへ
 本書には、130頁6行の「アウトサイダーばかりの特殊部落」というような今日の人権意識に照らして不当・不適切な表現があります。
 「特殊部落」という言葉が、しばしば被差別部落に対して差別的な意図をこめて用いられてきたことは疑問の余地のないことです。私たちは、「特殊部落」という言葉が、あくまで歴史的用語としてのみ存在し、今日においては世間一般から消え去ることを切望するものです。しかし三島由紀夫が執筆した当時1963年)、そうした認識が広く行き届いていたとは言い難いものがあります。
 ひるがえって現在の出版界においては、あからさまな悪意に満ちた差別表現は稀となり、むしろ意識せざる差別的表現、例えば、ある特定の職業、集団、状況などを「士農工商エタ非人」といった封建的身分制になぞらえるようなケースなどについての適切な認識が求められています。
 私たちはそのような状況において、「特殊部落」という言葉の歴史的社会的意味合いを知らない人々が、本書の中にある、三島自身が小説家になったときの心境を「アウトサイダーばかりの特殊部落におちつき、ほっと一息ついた」とするような比喩的表現を真似することによって、こうした表現が流布し、ふたたび差別をうみだすことを危惧せざるを得ません。
 もとより表現の解釈や作品の評価に絶対的なものはありません。差別の根源にかかわるテーマでもある「美と醜」「聖と俗」といったことを描いたものを含め、三島由紀夫の作品が今後も読みつがれ、さまざまな研究がなされるためにも、私たちは文章の削除などはおこなわないものです。
 また、読者の皆様とともに、差別の現状について認識し、その撤廃にむけて理解を深めていく所存です。

ちくま文庫編集部

 


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