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第10回全国識字経験交流集会基調
「解放新聞」(2003.09.29-2138)

 

 第10回全国識字経験交流集会を、9月19、20日、京都でひらき、220人が参加した。集会では、辻本文化対策部長が基調を提案した。その基調を、ここで紹介する。これをもとに、全国各地でさまざまな識字の活動にとりくんでほしい。集会の詳しい記事は次号に、具体的中身については、それ以降に掲載する。なお、基調は長文のため割愛したか所があることをお断りする。

 今年は、国連が2001年の第56会期で、あらためて2003~2012年を「国連識字の10年」と決議した初年度にあたります。この「国連識字の10年」は1990年の「国際識字年」を基礎にしています。
 識字は英語で「リテラシー」(literacy)と表現されていますが、それは単に文字の読み書きだけではなく、自分自身を知り、自立した市民になる手段を獲得するものとして位置づけられるものであり、自分たちを取りまく環境問題、権利や義務の問題などを理解する基礎的な知識や技術も含んだ言葉として使われているために、「成人基礎教育」という言われ方も使われるようになってきました。
 世界でおよそ8億8000万人の青年と成人が非識字状能であり、1億1300万人の未就学の子どもがおり、成人非識字者の3分の2と未就学の子どもの60%が女性であるといわれています。
 国連はこうした非識字の実態をふまえて、1990年を国際識字年と定め、「2000年までにすべての人びとに文字を」を目標として、その後の10年間に世界各地で、さまざまなとりくみを推進してきました。今なお、世界中には人間が生きていくうえに必要な識
字能力、読み書きができずに苦しんでいる人たちが多く存在しているため、国連は、2003年1月1日からの10年を「国連識字の10年」として、新たにスタートしました。
 このように節目の年に開催される第10回全国識字経験交流集会は、今後の識字運動を強化し、展開していくうえでも重要な集会です。

 被差別部落には、差別によって義務教育を十分に受けられなかった結果、文字を書けない、読めない人たちが多くいました。
 戦前、部落の自主解放をめざして結成された全国水平社は、1926年に「水平社教育方針書」を出すとともに、全国水平社が軍隊
入隊前の部落の青年に文字教育をおこなうなど、組織的な識字運動とまではいかないまでも、奪われた文字を奪い返す営みを各地で組織してきました。
 1950年代には部落解放運動や同和教育運動のなかで、夜間学校や子ども会活動、教師たちのボランティア活動のとりくみとして、識字という名称ではありませんが、文字を習い獲得する営みが、それぞれの地域の実態に応じてとりくまれ始めました。
 とくに1953年、大阪の矢田地域では、就職に必要な自動車免許を取るための活動として文字学習会がおこなわれていました。1
963年頃には、福岡県の京都・行橋を中心に組織的な識字運動として展開し、1967年3月に開催された第1回福岡県識字学校経験交流会後、福岡県内全体に広がっていきました。また、1969年、広島県で開催された部落解放第14回全国婦人(現女性)集会の分科会で識字の分科会が設置されてから、ますます広がりをみせました。
 部落差別によって教育が十分に保障されてこなかったために、文字を書いたり、読んだりできないことは、就職や日常生活でさまざまな問題を生じさせます。自らの生い立ちや部落差別への怒りを表現したり、多くの人たちに伝えるためにも、識字のとりくみは重要です。
 私たちは、1990年の国際識字年を契機に、被差別部落の識字運動と世界の識字運動との交流を図ってきました。日本国内でも、
「国際識字年推進連絡会」が各地につくられ、夜間中学校、障害者の会話に必要な手話や点字のとりくみ、日本語学習などとのネットワークを広げています。
 現在、識字の参加者も多様になり、外国人労働者、新渡日者が対象の識字教室も全国でおこなわれています。活動の内容も文字の読み書きだけではなく、生活する上で必要なさまざまな基礎的知識・技能を身につける成人基礎教育として、行動計画にもあるように、職業技能の向上と雇用にかかわる識字(リテラシー)、情報リテラシー、法リテラシー、科学リテラシーなどを取り入れていくとりくみがすすめられています。

 これまでの政府関係などの調査結果にはあらわれませんが、文字が書けない、読めないことが「恥ずかしい」こととして、いまだに隠さなければならない現実があります。非識字の問題は、政府の無責任からくる教育問題であって、当事者の責任ではありません。
 また、若い人たちにも非識字者が増えており、ヨーロッパやアメリカでは、深刻な問題になっています。日本でも、とくに部落の子どもたちにもこのような状況がみられます。昔なら識字の文章によくあるように「家が貧乏だったので、学校に行っていません」というように、差別―貧困―教育の機会が奪われるという構造がありました。
 しかし、今はそうしたことだけでなく、授業に集中できずに席を立ち歩き回るという子どもが多くいます。高校でも毎年、中退者が増加しています。学校を辞めた原因の一つとして、「勉強をする気がおこらない」ということが原因に上がっています。学力の問題もありますが、つめ込み教育の結果、文字を知ることの楽しみを奪われたままになってしまっています。文字の読み書きは、生活にかかわります。また、文化の問題でもあります。識字の大切さを今一度考えてみるべきではないでしょうか。
 狭山差別裁判の石川一雄さんは文字を知らないのに、脅迫状を書いたとされました。それも脅迫状と似た文字を書いているいう理由で「犯人一にデッチ上げられたのです。しかし、石川さんの文字は、警官に手をもたれて、書かれた文字をなぞることを無理やり押し付けられて書き上げた文字でした。文字を知らない者でも書かれた文字をなぞることで、みごとにその文字と似た文字が書けます。文字が書けることと、分かることは別問題です。文字を知りさらに使えて、生活をし仕事をする。これは生きるうえで、文字を知りそれを生かす力を持つことが、非識字を克服するということであるとユネスコも言っています。つまり、識字は生きる力であり、そのために、識字が必要だとも言っているわけです。文字を学ぶことは、言葉をとおして人間を豊かにし、自らを解放する営みなのです。
 日本語を話せない、書けない外国人にたいしても、日本語を押し付けるのではなく、相手の言葉や文化を尊重し、日本語を第2の言語として学べるようにとりくんでいかなければなりません。
 識字活動を、自分の生きざまをとおして、差別の実態を明らかにするという、私たちの活動の原点として再確認しながら、パソコン教室や、アジアの人びとが中心に参加する日本語学級のとりくみなど、新たな識字活動の可能性を視野に入れながら、幅広く連帯交流を実現するものにしていく必要があります。

 今年から始まった「国連識字の10年」をどのようにとりくんでいくのかが、これからの重要な課題です。
 世界には識字を必要としている人が多くいます。日本国内でも識字を必要としている人が数多く存在します。これまで部落解放運動のなかで識字運動が展開され、在日韓国・朝鮮人や障害のある人など、学習機会を奪われた人たちが文字を取り戻す運動を展開してきました。現在も中国からの帰国者や新たに移住する外国人も日本語の学習を求めています。日本語学校をはじめ、外国人が学べる場として夜間中学校があります。夜間中学校では、学校で満足に学べなかった人びと、外国からの帰国者・移住者など全国で3000人余りが、識字をはじめ歴史・現代社会など学習しています。
 しかし、夜間中学校は、地域的に偏りがあり、全国で8都府県35校しかありません。これでは、憲法で定められている「教育を受ける権利」が保障されていないことになります。少なくとも各都道府県、政令指定都市に1校以上公立中学校を設置することが求められます。
 多くの国では、識字センターを発足させ研究・開発がおこなわれています。日本でも、各地域に、教材整備・情報提供や相談などをおこなう、利用しやすい識字センターを発足させていくとりくみも重要です。
 「国連人権教育の10年」国内行動計画と関連させ、単に文字の習得だけではなく、さまざまな差別を撤廃していく力をつけるとともに、日常的に必要とされるさまざまな基礎知識や技術の取得も含めて発展させていくとりくみが重要です。また、「国連識字の10年」を大きな契機としながら、国際識字年中央実行委員会をはじめ、各地での識字実行委員会の活動を強化するとともに、新たに全国の識字活動の集約と組織化にむけて、国内外の識字運動との交流をすすめていきましょう。


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