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人権擁護法案廃案のりこえ
新規立法運動を展開しよう
「解放新聞」(2003.11.03-2143)

 

 第157臨時国会で、10月10日に衆議院が解散したことにともなって、昨年の通常国会で提案された「人権擁護法案」は、4たびの国会での継続審議をへて最終的に廃案となった。
 われわれは、「廃案」という事態にたいして残念ではあるがけっして落胆はしていない。『廃案を求めず! 廃案を恐れず! 徹底して抜本修正を求める!』という合言葉のもとに、われわれは「人権擁護法案」の抜本修正を求めつつ早期成立をめざす闘いを展開してきた。
 この2年間の闘いは、結果として抜本修正をかちとるまでにはいたらず廃案となったが、重大な欠陥法案であるにもかかわらず政府提案で強硬成立を図ろうとした政府・与党の頑なな姿勢を揺るがし、人権侵害救済に関する新規立法への政治的・社会的条件を創り出すことに成功したといえる。
 そこで、新規立法運動を直ちに展開していくにあたって、「人権擁護法案」の抜本修正を求めてきた2年間の闘いの到達点を確認しておきたい。まず第1に、「人権擁護法案」の問題点について、独立性や実効性の観点から余すところなく批判をおこない、抜本修正を求める2万1千をこえる各界代表署名にみられるように、大きな社会的世論を創り上げることができたということである。第2に、人権委員会創設を中心とする人権侵害救済に関する法律の必要性について、国会レベルでも「大事な法案である」との政治的な合意形成ができたことである。第3に、与野党修正協議のテーブル設定ができ、遅ちとしたものであれ修正への気運を創り上げることができたことである。第4に、「人権擁護法案」の動向に関して、国連人権諸条約横関が日本政府にたいして具体的に懸念と勧告を表明するなど国際的な注目・監視を集めさせることができたことである。

 われわれは、以上のような「人権擁護法案」の抜本修正を求めた闘いの到達点を継承しながら、パリ原則にもとづく「人権侵害救済に関する法律」の早期制定を求める運動に直ちに着手していかなければならない。今日時点での新規立法要求の根拠は、つぎの3点であることを確認しておきたい。
 第1の根拠は、人権擁護推進審議会答申(2001年)である。すなわち「人権救済制度の在り方について」と「人権擁護委員制度の改革について」の二つの答申を受けて、「人権擁護法案」は提案されたが、廃案となったために、政府責任として再提案する義務があるということである。
 第2は、国連人権諸条約機関からの日本政府にたいする勧告である。規約人権委員会、人種差別撤廃委員会、子どもの権利委員会、女性差別撤廃委員会などから、あいついでパリ原則にもとづく人権委員会の早期設置や「差別禁止法制定」についての強い勧告がなされており、この勧告を誠実に履行することは人権確立にかかわる国際的責務であるということである。
 第3は、「人権擁護法案」に関する与野党修正協議での合意事項である。すなわち、人権委員会の設立を中心とする人権侵害救済に関する法律は大事であり、政府原案は修正する必要があったという政治責任にかかわっての合意事項である。

 われわれは、「人権擁護法案」の抜本修正を求めた闘いの到達点および新規立法の3つの根拠をふまえて、ひきつづき新たな「人権侵害救済に関する法律」制定への運動を展開していく。新規立法運動の基本方向は、つぎのとおりである。
 第1に、人権委員会創設を中心とする人権侵害救済に関する法律は、国の政治的責任および人権確立に関する国際的責務で、早期制定をおこなうように求めていくこと。第2に、今までの「人権擁護法案」をめぐる経過をふまえて、独立性を確保するために内閣府の外局としての「3条委員会」を設置するように求めていくこと。第3に、実効性を確保するために、都道府県ごとに地方人権委員会の設置を求めていくこと。

 われわれは、以上のような基本方向にもとづき、総選挙の結果も含めて政治動向を見掘えながら、政府提案にするのか議員立法にするのかの立法手段を慎重に見定めて、「人権侵害救済に関する法律」の早期制定をめざしていく。そして、立法手段がいずれになるにしても、つぎのような当面の課題にたいするとりくみを推しすすめていく。
 第1に、総選挙期間中から新規立法運動を牽引していく超党派の国会議員の中核作りへの働きかけを強化していく。第2に、パリ原則にもとづく人権委員会の創設を中心とする「人権侵害救済に関する法律」の早期制定を求める声を各界に拡大していくとりくみをおこなっていく。このことにかかわって、12月に国際的なセミナー開催の準備に着手していく。第3に、地方自治体での「地方人権委員会」設置への先行的とりくみを促進していく。すでに実施されてきた全国人権同和行政促進協議会とのブロック別意見交換会の成果をふまえ、鳥取県や大阪府のとりくみを先例にして、各都府県ごとの地方人権委員会設置への動きをつくり出していくことは急務である。
 新規立法運動に向け、総選挙で部落解放・人権政策確立を熱心に推進する政治勢力を創り出し、国内外の幅広い各界の力を結集していくとりくみに、ひきつづき全力を傾注していこう。


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