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地方に税源と権限の委譲を目的に「三位一体改革」がすすめられようとしている。地方自らの判断と責任で、自立的な行財政の運営を可能にする「地方が自立するための改革」としてスタートした。
「国の主導で全国あまねく公平をめざすのか、それとも、地域差が出るのは覚悟で、地方の自主性に任せるのか」との指摘どおり、突き詰めれば日本の行政そのものの仕組みを根底から覆す議論がわき起こっていることは確かであり、あらためて国として担うべき役割とは何か、地方自治としての役割とは何かを明確に国民に示し、合意にもとづいた税源の委譲、地方交付税の分配という議論の手順でなければならない。
それを抜きに国庫補助負担金項目を並べたて、3兆円という数字に合わせるように事業名をあげ、本来、国と地方との役割を明確にしなければならないという本旨を離れ、棚上げしているのが現実である。
国で保障すべき最低限の役割を明確にしてこそ、地方の自主性が尊重されるのではないだろうか。ともあれ、日本の行政そのものの仕組みを根底から改革し、地方にもっと権限と税源が委譲され、地方が自立した行政運営をおこなうことについては歓迎する。
しかし、あくまで憲法で明記されている「基本的人権の保障」や「最低限の生活を保障する」といった国の役割まで地方に移管するということになっていいのかという根本の論議を棚上げしていることに問題がある。
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部落解放同盟は、「義務教育の無償」や「福祉・住宅は人権」という立場で運動を展開し、「同和対策事業特別措置法」の時代では、低位な生活実態の改善にとりくみ、昨今の一般施策の活用という時代では、社会的に困難を抱える人びとの自立支援にとりくむなど、まさに「健康で文化的な生活を営む権利」の確立をめざし、全国的な運動を展開してきたところである。
「三位一体改革」にたいする基本的な態度は、「地方の自主性の確立」「地域主権」という立場では賛成するものの、今日まで築きあげてきた同和行政・人権行政の成果が各自治体の温度差により、損なわれてしまうことの危険性については反対である。たしかに地域主権で、より市民に身近なところで政策決定されることがのぞましいことはいうまでもない。
しかし、部落差別は、より身近な地域からの忌避や排除として発生している現実を見たとき、しかも規模の小さい少数点在の部落の場合、差別的な多数の暴挙によって、地域での同和行政・人権行政が後退しかねない危機的な状況をむかえる可能性さえ危惧される。
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今後は、当該自治体への行政闘争の強化が何よりも大事な課題である。行政闘争を強化しなければ、同和行政の縮小・後退という方向に向かう可能性があることを指摘するものである。
しかし、逆に行政闘争を強化し、部落の実態把握にもとづく政策提案をおこなう運動が構築できれば、「三位一体改革」という危機をチャンスにすることができるということである。まさに「支部自慢」「ムラ自慢」の運動が求められている。三位一体改革は、文字どおり国から地域への権限委譲という改革であり、その本旨から逸脱することはあってはならない。
そのためには、国と地方との任務分担を明確にし、国と地方との責任の範囲を明確に指し示すことが肝要である。これ抜きに「三位一体改革」を支持するわけにはいかない。地方自治体がより裁量権をもって行政運営をおこない、質の高い市民サービスを提供することは、よりよいことであり、人権のまちづくり実現のためにも欠かすことの出来ない道程といえる。
自治体行政との交渉にとりくみ、当該行政での確固たる部落解放行政の確立・推進を求め、部落の存在するすべての自治体での交渉にとりくもうではないか。
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住民サービスの向上と管理経費の削減を目的に「指定管理者制度」の導入がすすめられようとしている。当然、部落内公的施設についても「指定管理者制度」の導入についての論議が迫ってきており、対応が求められている。
本部としては、まず第1に、公的施設での「直営」方式と「指定管理者」方式への適用の判断根拠を明確にさせ、部落内公的施設への対応姿勢を明確にさせることである。単なるコスト削減という行政の都合で隣保館などの部落内公的施設が民間委託されることは当然反対であり、歴史的経過からみても部落問題解決の行政責任という立場から、隣保館などは運営されなければならないことは当然である。
あらためて、わが方の基本的な闘いの方向については、隣保館設置運営要綱に掲げてある「隣保館は、市町村が設置し、運営する」という基本方針を堅持するため、当該行政とそのことを確認し、行政責任が後退しないよう求めることである。
第2は、新制度導入のもとで、部落内公的施設の「これまでの成果を今後の同和行政・人権行政に引き継ぐ」ための対応を明確にさせることである。それは、「指定管理者制度」の部落内公的施設への適用の判断根拠と施設の目的を確認し、「これまでの成果を今後の同和行政・人権行政に引き継ぐ」という行政責任と方針を確認したうえでの具体的対応を求めることである。
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第3は、部落内公的施設に「指定管理者制度」を導入する場合、その設置目的・設置条例など、あらためて「公的責任」を明らかにすることである。「指定管理者制度」導入により、公的施設の設置条例が改悪されないよう積極的な関与をして、部落解放・人権の視点に立脚した条例として維持・発展させていくことである。
とりわけ、部落内の公的施設の指定管理者への移行については、施設の「設置条例」の目的に″同和問題の解決に資する″との設立趣旨、さらには歴史的・社会的に果たしてきた役割をふまえ、民間委託による条例の改正についても今後ともこの目的を継承・発展させていくことを求めていくことである。
第4は、「指定管理者制度」の動向を見極めながら、われわれの側からの「受け皿」つくりへの具体的な準備を開始することである。委託の方向が出てきた場合の対応について、安易に妥協し、行政責任を棚上げにされたまま、隣保館の管理運営を民間に簡単に委ねられる可能性もあり、慎重を期した対応が必要といえる。
当該行政の部落問題解決の責任をしっかりと担保させ、なお隣保館などで、新たな住民サービスの展開ができることなどを、地元と合意することがなにより重要である。
中央本部も「指定管理者制度に関わる検討プロジェクトチーム」を発足させ、自らが運営する場合の申請と事業計画のあり方や、業務の具体的範囲、さらには、行政責任の明確化などを明らかにするとともに、全国的に参考となる実践例の紹介などにとりくむこととしたい。すべての都道府県、市町村での行政闘争の展開を訴える。