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部落解放同盟は、第44回総選挙闘争を「松本龍議員の6選必勝と中川治議員をはじめとする全推薦候補の当選をかちとり、小泉反動政権と全面的に対決しうる「人権と平和」のための政治勢力の形成をはかっていく闘いであり、絶対に負けることのできない闘いである」と位置づけてきた。
しかし、9月11日の総選挙の結果は、小泉自民党の歴史的圧勝と民主党の惨敗という事態になった。与党勢力は、327議席(自民党296議席、公明党31議席)を獲得し、衆議院の3分の2(320議席)以上を占める「巨大与党」となった。これは、憲法改正発議を含めてあらゆる法案が与党の意のままになるという危険な政治地図ができあがったことを意味する。
このような状況のもとで、民主党候補を中心にした部落解放同盟の推薦候補は、154人にのぼったが、72人(比例復活34人)しか当選できず、当選率は47%にとどまるという厳しい結果となった。
松本龍副委員長は、この厳しい選挙状況のなか、前回比で7000票近くを上積みして「99939票」を獲得し、見事に6選を果たして「解放の議席」を維持した。しかし、正直にいって、自民党候補(比例復活)が7000票差にまで追いあげてくるという辛勝であった。
また、中川治候補は、「93402票」と前回比で3500票近く増やしたにもかかわらず、比例復活もならずに惜敗した。さらに、部落解放同盟と深く連携してきた中野寛成・前衆議院副議長(大阪)、堀込征雄・民主党部落解放推進委員会事務局長(長野)、辻恵・狭山弁護団メンバー(大阪)などが、あいついで落選するという残念な結果になった。
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今回の総選挙結果にたいして、その原因と背景を的確に分析して、いたずらに長嘆息することなく、正確な現状認識にもとづいて部落解放・人権政策確立に向けての政策展望の根拠を明確にしておく必要がある。
まず第1に、総選挙がおこなわれた政治的・社会的背景には、有権者の中に「閉塞感・不安感・焦燥感」が蔓延して、政治にたいする不信が存在していたことは事実である。この政治不信は、「経済不況問題」「行財政改革問題」「司法改革問題」「社会保障問題」「外交問題」などなど、小泉政権の八方塞がりの政策がもたらしたものである。
第2に、それにもかかわらず、小泉総理は、参議院で否決された郵政問題にのみ争点を絞り込んで、衆議院解散・総選挙という暴挙に打って出たのである。これは、みずからの全般的な失政の責任を覆い隠し、郵政問題での自民党反対派や野党に責任転嫁をし、さらには「小さな政府」の名のもとに公務員労働者を生贄にして不況下で苦しむ一般労働者のねたみ意識をかき立てて分断しながら、起死回生を狙うという小泉総理の政治的賭けであった。「改革を止めるな」「郵政民営化に反対か賛成か」「反対者は刺客で潰す」という政策内容抜きの小泉政治が、「改革・鮮明・勇断」という政治姿勢を演出することに成功して、有権者に幻想的なある種の「期待感」を与えたことは間違いない。
第3に、これに対処すべき野党の側にも間題があったといえる。小泉政権が八方塞がりの状況に陥り、政権交代のチャンスであったにもかかわらず、民主党をはじめとする野党側が政治のイニシアティブをとれなかったことである。解散・総選挙の事態を自民党の内紛劇として傍観者的態度をとり、郵政問題はいうにおよばず政治路線や政策争点での迫力ある対案提示で後手に回ったということである。小泉総理の「郵政法案に反対する者は守旧派」という皮相なレッテル貼りを許し、有権者の抱いている「閉塞感・不安感・焦燥感」を打ち破るに足る政権担当能力を示す政治姿勢を鮮明にできないままに、「小泉劇場」の脇役に埋没したことである。
第4に、今回の総選挙は短期間であったためにまさにメディア選挙の様相をていした。そのメディアの多くが、「小泉刺客劇場」に追随して、それが総選挙の争点であるかのごとく連日とりあげて、「衆議院解散の是非」や「総選挙の政策争点」で真正面から切り込むことなく、衆愚政治化路線に迷走した結果、自民党への全面的なバックアップ効果をもたらした事実は否めない。
第5に、以上のような状況のもとで、総選挙への関心が高まり投票率は67.24%となり、小選挙区制度導入後の4回の選挙では最高の投票率となった。前回比でいうと7.38%アップしたことになり、約800万票が増えた。これは、1選挙区平均で2万6~7千票増えたことを意味する。しかも、投票率が上がれば民主党に有利といわれた過去の選挙とは様相が一変して、投票行動の世論調査では無党派の若年層の多くが自民党に投票したことに注目しておかなければならない。
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結論的にいうならば、今回の総選挙の事態が、歴史的教訓としての危険な時代状況にあるのではないかということを警戒するのである。すなわち、日本での日清・日露戦争から第2次世界大戦にいたる時代や、ワイマール憲法下でのナチズムの台頭といった時代状況と重なるところがあまりにも多すぎるということである。その結末は、悲惨な戦争への道であったことは歴史が教えるところであるが、断じて同じ歴史の過ちを繰り返してはならない。そのために、部落解放運動が今なすべきことは何か。
第1に、「人権立国」への具体的なとりくみを地域から再構築していくことである。「戦争」と「弱者切り捨て」の路線を推しすすめようとしてきた小泉政権は、圧倒的多数をバックにして、これらの路線をつぎつぎに現実化させてくることは間違いない。すでに、一部のマスコミは「巨大与党 憲法改正に弾み」(9月14日付)と煽りはじめている。これらの反動路線と対峙するためには、あれこれの政治的駆け引きでは無力であり、本格的な「人権と平和」の危機を突破するための地域からの院外闘争を構築し直すことである。地域からの「人権の法(条例)制度確立」と「人権のまちづくり運動」を強化していくことが急務である。
第2に、「人権侵害救済法」制定運動を腰を据えて仕切り直し、早期制定への現実的な道筋を見きわめることである。この間、議論になったようなことをふまえれば、「総合的な人権の法制度の全体構想」の一環としての「人権侵害救済法」の位置づけを明確にしながら、早期制定への理論武装と地域を基盤にした広範な世論形成を急ぐ必要がある。
第3に、地域・中央段階で「人権と平和」を求める共同闘争体制の拡大強化を地道にはかっていくとともに、有効にメディア対策を強化することである。「障害者基本法」や「外国人人権基本法」「男女平等条例」制定など個別課題で各人権NGOが独自にすすめているとりくみなどと分断されることなく、横断的につながり合う共同戦線確立のとりくみなどをすすめながら、「人権と平和」連動の裾野を広げていくことが求められている。そして、それらの差別撤廃・人権確立の必要性についてメディア媒体を有効に活用していくことが肝要である。
第44回総選挙によって、小泉政権を支える巨大与党が出現し、戦後60年にわたって築き上げられてきた「人権と平和」が現実的な危機に直面してきているとはいえ、まだ切り崩されているわけではない。正念場の闘いはこれからである。小泉政権の横暴を阻止できる力は、地域からの「人権と平和」を守り発展させる勢力の伸張であり、この力を背景に全国的なネットワークで中央政界を包囲する強力な布陣を敷くことができるかどうかにかかっている。各級機関と全同盟員は、足もとからの「人権と平和」のための闘いを再構築していこう。