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部落問題資料室
NEWS & 主張
主張

 

解放運動への弾圧もねらう
「共謀罪」の廃案をめざそう
「解放新聞」(2006.04.17-2265)

 「人民が政府を恐れるのではない、政府が人民を恐れるのだ」
 いまはやりの映画の宣伝文句風にいうとこうなる。現代版の治安立法として成立がもくろまれている「共謀罪」の本質はこれだ。政府は、この間、虎視たんたんとこの法律を制定することを狙ってきた。
 1990年代、世界はグローバリゼーションという新しい流れのなかに叩き込まれた。90年代、日本もこうした流れのなかで、新たな社会再編をおこなってきた。それが、規制緩和、市場原理主義=市場万能論だ。戦後民主主義のなかでかちとってきた、民衆のあらゆる権利と成果を奪い取ろうとするのが、この政策だ。こうした本質を隠し、改革が民衆のためであるかのように、権力者は巧妙に宣伝し、人びとをだましつづけてきている。
 産業、雇用形態、労働、教育、政治、医療、福祉、生活など、あらゆる領域に再編はおよんでいる。部落解放連動を考えてもそうだ。差別実態や意識を把握もせず、部落差別はなくなったとばかり、同和施策を打ち切る流れが登場した。不況と失業のなかで、部落にこそ集中的な対策が必要であるにもかかわらずだ。最近では、自民党内で「人権擁護法案」ですら、偏狭なナショナリズム=排外主義と国権主義を唱える部分によって提案が妨害されている。そのうえ管理委託制度の名のもと、運動のなかでかちとってきたさまざまな施設が奪い取られようとしている。

 権力者にとって、一番恐ろしいのは民衆なのだ。だからこそ、90年代に「周辺事態法」というかたちで、世界的な軍事同盟の再編をおこない、金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏人にというかたちに社会を作りなおし、維持するために、それに反対する人びとを弾圧するための法律が、つぎつぎに作られた。
 住民基本台帳のネット化、盗聴法、組対法などが、その代表的なものだ。人びとの射線を日常的に監視、管理しようとするのがこれらの法律の本質だ。とくに組村法は、いまや日常的にさまざまな犯罪に適用され、つぎなる「共謀罪」適用への地ならしがすすめられている。
 街なかや商店街、ビルのなかを見回してみよう。これ見よがしの監視カメラがあふれ、「怪しそうな人や外国人を見たら」と密告が奨励され、道路上にもどの車がどこへ走っているかリアルタイムで監視する装置が張り巡らされている。このあふれるような閉塞感のなかから、新たな差別事件がおこっているのである。
 この先に、愛国心を強要し、差別選別教育を正当化しようとする「教育基本法」の改悪、本来は権力者を縛るはずの憲法を、人民を縛るものとしての憲法に変えようとする改悪が待ちかまえているのである。
 それだけではない、刑事事件被告の防御権すら奪い取ろうとする裁判迅速化攻撃、弁護士が被告人から重大な事実を知った場合それを報告するようにとの強制法、代用監獄を正当化する法律、厳罰化傾向など、司法にかかわってもさまざまな再編がすすめられているのだ。被告人に有利なようにふるまう弁護士にたいして、事実関係を覆い隠し、それを非難する世論を誘導しようとする勢力すら登場してきているのである。

 国会内で公然と排外主義、国権主義が語られ、知事が平然と人種差別発言をおこなう。これが、残念ながら、今の日本の現状だ。おもい出してもみよう。排外主義、国権主義がはびこるとき、内には差別の強化としてそれはあらわれ、外には侵略としてあらわれたことを。
 こんなときに戦前は「治安維持法」があらわれた。「国体を変革しようとするもの」への取り締まりを口実に共産主義者やシンパ、労働運動家、水平社の活動家などに過酷な弾圧が加えられた。敗戦間近な時代には、政府に少しでも反対する人びと、良心的な宗教者、政治学者、ジャーナリストなども、同じように弾圧・投獄され、獄死させられたという事実を忘れてはならない。
 「共謀罪」は、犯罪をおこなう前に事前に取り締まることができる法律で、組織的に、といっても2人以上なら組織と認定される、協議・相談し、それが「犯罪」と認定されるなら、逮捕・拘束できるというものだ。
 部落解放運動に関連して考えてみよう。たとえば、支部や地協で差別事件の確認会や糾弾会について、糾弾要綱を作成し、相手がこう答えたら、つぎにこうもっていこう、ということを協議すると、それが監禁などを事前に共謀したとして、逮捕されることになる。あるいは、行政交渉の事前打ち合わせも対象となる可能性がある。すべては、権力者の恣意しだい、というわけだ。
 げんに、労働運動の正当な交渉や抗議行動が「犯罪」として、取り締まりの対象になっている事実がある。
 こうした悪法の成立を許してはならない。「共謀罪」の本質をあらゆる人びとに訴え、さまざまな反対集会への参加、署名運動の盛りあげなどをはかり、確実に廃案に追い込んでいこう。

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